「ナショナル ジオグラフィック日本版広告賞」受賞のお知らせ

「ナショナル ジオグラフィック日本版広告賞」受賞の報告

「ナショナルジオグラフィック日本版広告賞」は、日経BP社が同社のメディアなどを活用したマーケティング活動を表彰する「日経BP Marketing Awards」の中で、特に雑誌「ナショナルジオグラフィック日本版」に掲載されたものの中から選ばれる賞です。この賞の2021年分として、私、写真家西澤丞が関わりました、キヤノンマーケティングジャパンさんの活動が受賞いたしました。

ナショナル ジオグラフィック日本版20121年6月号に掲載された受賞対象作品です

受賞しましたのは、キヤノンマーケティングジャパンさんの1年間の活動全体であり、私が関わっているのは、半年分だけですので、評価いただいた対象の一部に過ぎませんが、それでも第三者に「賞」という形で仕事を評価していただいたことは、大変光栄なことだと思っています。私が関わった連載は、私の写真と私へのインタビューで構成されています。

私が継続して行なっている「写真を通じて日本の現場を応援する。」という活動は、私ひとりで実現できるわけではなく、多くの方のご理解、ご協力の上に成立しています。また、今回のお仕事も、多くの方が携わって、形となり、賞に結びついています。ここで改めて、関わってくださった全ての方に感謝申し上げます。撮影に協力してくださった取材先の皆様。私の写真を採用してくださったキヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンの皆様。誌面を制作してくださった皆様。そして、賞に選んでくださった審査員の皆様。関わってくださった全ての人に感謝いたします。ありがとうございました!!

写真の紹介

さて、せっかくの機会ですので、連載の中で掲載された写真を、撮影した理由を含め、もう少し詳しく紹介してみたいと思います。

撮影地:横浜北西線 撮影日:2017年3月13日

横浜市内で建設中だった高速道路「横浜北西線」の工事現場で撮影させていただいきました。青と白に塗られている機械は、トンネルを掘削するためのシールドマシンです。シールドマシンは、茶筒を横に倒したような形をしていて、断面に相当する円形部分に歯が付いています。そして円形部分を回すことで、歯が土をかきとってゆく仕組みです。この写真に写っているのは、土をかき取る円形部分の下半分で、青色の部分についている突起が歯に相当する部品です。

完成してしまえば、何も考えずに通り過ぎてしまう道路ですが、実際には、完成に至るまでには多くの人の苦労や努力によって作られている重要なインフラです。特に、地下トンネルの場合、完成するまで人目に触れることがなく、経過をうかがい知ることが出来ませんので、写真で伝えたいと思って撮影させていただきました。

撮影地:美笹深宇宙探査用地上局 撮影日:2018年10月22日

はやぶさ2などとの交信に使うアンテナの建設風景です。この文章を書いている2021年5月の時点では、すでに完成し運用が始まっています。この美笹深宇宙探査用地上局は、長年使っていた臼田宇宙空間観測所のアンテナが老朽化してきたため、それに代わるアンテナとして建設されました。アンテアの直径が54メートルほどありますので、10分割された状態で組み付け作業が行われていました。

個人でも企業でも、どのような立場であっても、社会的貢献を無視した活動は成立しにくくなっています。日本が国として世界に貢献する方法は、お金を渡すとか物を送る以外にも、基礎研究や宇宙探査のように、世界の人が成果を利用出来る、平和目的の研究をすることも含まれるはずです。そして、科学や技術を生かした貢献の方が、より日本らしい貢献の形であるようにも感じます。この写真は、写真だけ見れば、単にアンテナの建設風景ですが、日本が世界に貢献する方法について考えてもらうきっかけになればいいなあと思っています。

撮影地:横浜市資源循環局金沢工場 撮影日:2019年11月20日

可燃ゴミを焼却するための清掃工場内で撮影しました。写真に写っている機械は、集めたゴミを、焼却炉に投入するために使われるクレーンです。間近で撮りたかったものですから、点検するタイミングで撮影させてもらいました。この場所は、ゴミを溜めておくゴミバンカーの中ですので、防塵マスクとヘルメットをして撮影し、服は撮影後に着替えました。

自分が捨てたゴミは、どのように処分されているのか?そんな単純な疑問を持ったことから、実際の現場に行ってみました。一連の撮影では、再生可能ゴミの分別工場や最終処分場まで行かせていただきました。なんとなく知っているつもりになっているだけでは、行動変容につながりませんが、現場を見て現場の方にお話を伺ったりすると、ゴミの分別に気をつけるだけじゃなく、物を買う時も「これ、リサイクルしやすいのかな?」などと考えるようになります。この時の写真は、まだ、写真集などにまとめていませんが、いつか、きちんとした形でまとめ、みなさんと共有したいと思っています。

撮影地:石塚硝子株式会社 撮影日:2020年1月31日

ガラスびんの製造工場で成形の工程を撮影させてもらいました。ガラスびん製造工程は、まず、リサイクル素材に対して新しい材料を加え、1500度程度に加熱します。素材をドロドロに溶かした後は、適当な大きさの塊にし、この機械でガラスびんの形に成形します。その後、温度調節をして歪みを取り、検査の工程を経て出荷します。この成形工程では、20分おきに、型に離型剤を塗っていましたが、その塗り方が難しいそうです。

ゴミ分別工場に行った時、ガラスびんが分別されているのを見せていただきましたので、その後が気になってお邪魔させていただいたのが、このガラスびんの製造工場です。ガラスびんの製造において使われるリサイクル素材は、おおむね6割程度とのことで、原料置き場には、ガラス片(カレット)が色ごとに分けて置かれていました。ペットボトルの場合は、リサイクルといってもペットボトルとして生まれ変わるわけではありませんので、ガラスはリサイクル素材として、とても優秀だと思います。また、洗浄して再利用することも出来ますので、リユースという面でも優れているように思いました。

撮影地:宇部興産株式会社 撮影日:2020年1月15日

セメント工場内にある石灰石を砕くためのミルです。隣にある鉱山からベルトコンベアで運ばれてきた石灰石は、このミルの上方から投入され、細かく砕かれます。円筒部分にボルトがたくさん突き出ていますが、これは、内壁を固定するためのものです。石灰石を砕く時に内壁が磨耗してしまうので、定期的に取り替える必要があり、そのために交換をしやすくしてあるのです。工場内には、このミルが何機も並んでいて、大きな音が響き渡っていました。撮影時に耳栓をお借りしましたが、普段は人がおらず、人が入るのは点検などの必要が生じた時だけだそうです。

自分が使っている資源がどこから来ているのか、気になって調べているうちに、石灰石鉱山にたどり着きました。日本では、資源のほとんどを輸入に頼っていますが、石灰石は、自給できている数少ない資源のひとつなので、産出する工程から撮影できるのではないかと思ったわけです。こちらの会社では、石灰石鉱山で発破が行われている様子から工場でセメントになるまでの工程を撮影させていただきました。

撮影地:大同特殊鋼株式会社 撮影日:2019年11月26日

この工場では、鉄スクラップを素材にして、自動車のエンジンなどに使われる特殊な鋼鉄を作っています。製鉄所では、高炉を使って鉄鉱石を溶かし鋼鉄を作りますが、ここでは、電気炉で鉄スクラップを溶かし、そこから製品を作っています。材料は全て鉄スクラップですので、完全にリサイクルの工場です。写真は、溶かした鉄を棒状に固める工程です。ここは、とにかく熱いので、短時間での撮影です。

この工場は、以前も撮影させていただきましたが、「資源・ゴミ・リサイクル」をテーマとした撮影を進める中で、リサイクルの工場として改めて撮影させていただきました。ただ、このテーマは、渋すぎるテーマなのか、本としてまとめる機会がないままコロナになってしまって、宙に浮いています。コロナが収まったら撮影を再開するとともに、機会を見つけて発表したいと思っています。

賞をいただいて思うこと

この国は江戸時代が長かったせいか、前例のない活動や考え方は、排除されて来ました。また、社会的な問題に個人で関わることは、無意味なこと、もしくは、関わってはいけないことだという雰囲気が濃厚に漂っていました。私自身の活動を振り返ってみると、誰も撮ったことのないものを撮りたいと考えてきましたし、撮影の目的を、雇用のミスマッチをはじめとする問題解決に設定していましたので、私の写真が「賞」という形で評価されることは、ありませんでした。世の中の考え方と私の考え方は、全くもって、ズレていたからです。しかし、ここ数年で世界は大きく変わりました。前例のない事態が次々と起こり、過去を基準にした発想では対処できないことが明らかになりました。また、目先のことだけを考えるのではなく、未来を見据えて物事を考えることが主流となり、社会的な問題を、自分の問題として考える人も増えてきました。今回、プロジェクトの一部としてではありますが、賞をいただいたことも、このような流れと無縁ではないはずです。この機会を励みとして、引き続き、写真の「伝える力」を社会に生かす活動を続けてゆきたいと思っています。また、未来が少しでも良い方向に進むことを願っています。