リクルート用パンフレットの提案。まずは、興味を持ってもらうところから。

はじめに

航空自衛隊百里基地を題材に、「こんなのがあったら面白いよね。」っていう妄想で、リクルート用パンフレットを作ってみた。そして、せっかくなので、この機会にパンフレットや写真集を作る時の段取りや考え方などを書いてみようと思う。

ここで紹介するのは、印刷会社である加藤文明社さんと紙の商社である平和紙業さんと一緒に不定期で作っている自主制作の冊子の第5号だ。前号までは、写真家西澤の活動報告だったり、印刷の面白さを知ってもらう目的で作っていたんだけど、今回は、広報やリクルートに関わる人たちの参考にしてもらえるように、実践的な内容にしてみた。

航空自衛隊百里基地を題材にした理由

百里基地を取材させてもらったのは、自分が運営しているウェブサイト「Workers in Japan」に記事を書くためだった。内容は、F2戦闘機のパイロットや整備士にお話を伺って、写真とともに紹介するというものだ。ただ、実際に現場に行ってみると、自衛隊が人手不足だってことと、パイロットや整備士以外にも様々な仕事があることを知った。そこで、追加で取材をさせてもらって、リクルートに役立ててもらえるような冊子を作ろうと思い立ったのだ。まあ、頼まれたわけでもないし、使ってくれるかどうかもわからないから「妄想」ってことになっちゃうんだけどね。

参考までに、きっかけとなったウェブサイトの記事へのリンクも貼っておくよ。
F2戦闘機のパイロットと整備士を、航空自衛隊百里基地で取材した!前編。

冊子の内容を決める

さて、冊子を作る段取りとしては、まず、どんな冊子にするのかってところから考える。

僕の活動は、子どもたちの職業の選択肢を増やすことを目的の一つに据えているので、写真を撮る時には、できる限りわかりやすい写真を撮るように心がけている。そして、写真集などを作る時には、高校生の自分が見たら「欲しい!」って思えるようなものを作るようにしている。だから、今回のパンフレットも、その延長線上にある。

それから、世の中のパンフレットは、説明することを目的に作られていることが多いけど、このパンフレットでは興味を持ってもらうためのきっかけ作りを目的にした。この国では、誰かに何かを伝えようと思った時、説明に終始しちゃうんだけど、興味を持っていない人にいくら説明をしたところで、誰も耳を貸してくれない。何かを伝えたいなら、まずは興味を持ってもらうことが先だと考えているからだ。具体的には、働いている人たちのかっこよさを前面に出し、リクルートとしての要素は、様々な仕事があることの紹介と仕事のやりがいなど、必要最低限に絞っている。今の人は、興味があれば、どんどん検索してくれるから、あれもこれも盛り込むことはしていない。

素材を集める

パンフレットの方向性が決まったら、次は素材集めだ。

今回は、記事を作った時の写真とインタビューをまとめた文章があったので、その素材をもとに、下の図のようにざっくりとした構成案を考えてみた。

これを作ってみたところ、パイロットと整備士以外の写真が大幅に不足していることがわかったので、足りない部分を追加で撮影させてもらった。このように、撮影に出向く前に不足している素材を明確にしておくと、自分も撮影しやすいし、先方も対応しやすくなると思う。手を動かす前の段取りが重要だ。

そして、素材が全部揃ってから作った最終の構成案が、これだ。

2件のインタビューは、それぞれ見開きとしてまとめる方法に変更したし、様々な仕事を紹介する写真は、巻末に移動している。最初の案では、バラバラに配置してあったものを、スッキリまとめて配置したってことだ。

構成を考える時のコツ

写真集や冊子の構成を考える時に大事だと思っていることを、いくつか紹介してみたいと思う。

P2,3のイントロ。

イントロ

イントロは、大きく二つのパターンに分かれると思っている。ひとつは、いきなりクライマックスに持って行く方法。ドカーンって感じで始めてグイグイ行く感じだ。もうひとつは、ゆっくりと意味深な感じで始める方法だ。今回は、ゆっくり始める方法を選んだ。一見、何が写っているのかわからないような写真の上に

「航空自衛隊 百里基地に所属するF2戦闘機は、およそ二十機。そして、その活動は、千数百名もの隊員の仕事に支えられている。」

という文章を入れた。冊子を、この文章から始めることにより、後に続くページも、「仕事」という視点で見てもらえるようになる。つまり、この冊子が単なる自衛隊写真集ではなく、仕事を紹介する冊子、つまりリクルート用のパンフレットとしての意味を持つようになるってことだ。背景に選んだ写真は、百里基地をイメージできるような写真であれば、なんでもいいけど、最初から文字を入れることを意識して撮影に臨まないと、こういう写真を撮ることはできない。

ページをめくった時の緩急

僕は、ダラダラと同じような写真を並べるのが嫌いだ。だから、意味もなくバリエーションカットを並べるようなことはしないし、ページをめくる度に話が進んでゆくような展開させたい。それは、写真を選ぶ時にも考えるし、写真を見開きで使うのか、余白をつけるのかといった時にも考える。緩急をつける並べ方については、写真の勉強をするよりも、映画を観た方がいい。つまらない映画の展開が、なぜつまらないのかを見ていれば、1カットが不必要に長かったり、無駄なシーンが多いことに気がつくだろう。僕の写真は、映画と違ってドキュメンタリーなので、必ずしも思うようなシーンが撮れるわけではないが、それでも編集の時には、手元にある素材を使って、メリハリをつけるようにしている。

上は、パイロットと整備士の仕事を紹介する章から、それ以外の仕事を紹介する章へと移行するところに設定した見開きページだ。それ以前に出て来ていた戦闘機とは明らかに違う雰囲気の写真を見開きに持ってくることで、パンフレットの流れに緩急をつけ、同時に、話の展開が変わることも表現している。このページには、以下のページが続く。

大きな写真の後に、小さな写真を物量作戦で展開している。写真の大小でも、もちろん緩急はつく。

ところで、こんな感じでペタペタ写真を並べる時には、写真の向きや明るさ、写っているものの内容が、出来る限りバラバラになるように心がける。また、上下左右で写真の境目がきちんと分かるように配置することも重要だ。黒っぽい写真の横に黒っぽい写真を並べたりすると、写真の境目がわからなくなってしまうのでNGだ。

写真の向きに気をつける

写真の向き(構図)を大別すると、右向き、左向き、正面に分類されるのだけど、写真を並べる時には、左右のページや前後のページに同じ向きの写真が来ないようにしたい。左右に同じ向きの写真が並ぶと、違和感を感じる場合もあれば、単調な印象になってしまうこともある。こればっかりは、実際に並べてみないとわからないので、撮影時に余裕があれば、右、左、正面の三通りを撮っておくことをお勧めする。まあ、そうはいっても状況はどんどん変わって行くし、構図として、どうしてもこっちからだよねってこともあるから難しいんだけどね。

使わなかった写真たち

写真を捨てる勇気を持つ

苦労して撮った写真とか、かっこいい写真っていうのは、なんとかして使いたいと思うのが人情だ。しかし、ここまで説明して来たように、パンフレットや写真集の構成において重要なのは、全体の流れだ。苦労して撮った写真であっても、傑作写真であっても、全体を見て、流れを阻害してしまうようであれば、その写真は潔く却下しなければいけない。

インタビューも載せた

この冊子では、写真を多用しているものの、4ページ分のインタビューを載せている。現場の人の考えを知った上で写真を見ると、写真にも文章にもリアリティーが出てくるからだ。この冊子が、もし、西澤の書いた文章と写真だけだったら、説得力のないリクルート冊子になってしまっただろう。そして、誰の発言だかわからない言葉しか載っていなかったとしたら、見向きもされないだろう。

また、この冊子とは関係ないが、昨今、いろいろな業種が人手不足なので、ネット上にも社員さんのインタビュー記事を載せているサイトが多くなってきた。でも、それらの多くは、インタビュー対象者の顔写真と文章だけで構成されていることが多く、求職者が知りたいと思っている、実際に仕事をしている様子や会社の雰囲気は伝わってこない。そういうサイトを見ていると、とっても勿体無い気がする。もう一歩踏み込めば、もっと伝わるのになあ。

紙はコート紙にした

今まで作ってきた自主制作の冊子は、クリエイターさんの刺激になることを目的にしていたので、用紙は面白い質感の紙を選んできた。しかし、この冊子は、一般向けに作ったので、一般の人に馴染みがあるコート紙を選んだ。質感のある紙よりコート紙の方が、発色がいいので、人によっては高級だと感じてくれるようだ。

「なんとなく」では伝わらない

ここまで読んでくださった方は、お気づきだと思うが、写真のセレクトや文章について、「なんとなく」で決めていることは、ほとんどない。伝えたい相手や伝えたい内容をあらかじめきちんと決めておくことで、内容が明確になり、自ずと完成形は見えてくる。逆に、情報を発信する側が、「なんとなく」で作ってしまうと、輪郭がボケてしまって何も伝わらないことになる。手を動かす前に目的を明確にしておくことが、何より重要だ。

おわりに

僕は田舎で育ったので、通学路で見かけるポスターと言えば自衛官募集のポスターくらいしかなかった。今のポスターがどうなっているのか知らないが、当時のポスターは、自衛官が空に向かって指をさしているような図案で、子どもながらに「なんでこんな嘘くさいポスターを作ってるんだろう」と思っていた。そこから40年。ようやく「自分ならこうする」っていうものを形にできた。長かった。

以上、写真家西澤の悪戦苦闘でした!