写真家として生き残るための方法として、新しいウェブサイトを立ち上げました。
はじめに
現在のコロナ禍、そしてコロナ禍が収束した後のことを考え、写真家として存在し続けるために、新しいウェブサイト「Workers in Japan | 人と仕事の情報発信サイト」を立ち上げました。現場の人の熱い思いやかっこよく働く姿を紹介するサイトです。趣旨については、同サイト内で説明していますが、ここでは、立ち上げた理由や目的について書いています。同サイトは、立ち上げたばかりであり、私自身も試行錯誤をしている最中ではありますが、私と同じようなフリーランスの方々をはじめ、コロナ後の活動について考えている多くの皆さまと情報共有できればいいかなと思って書いてみました。
1)発表媒体の確保
今までの私の撮影は、商業印刷の写真集を作るために行ってきました。しかし、このコロナ禍により、カメラ雑誌が2誌も休刊するなど出版不況が加速しており、今後は、売れ筋の被写体(動物、風景、乗り物、エロなど)以外は、出版社が企画を採用してくれなくなることが予想されます。そうなるとインフラなどを撮影している私が、写真の発表媒体として写真集を設定することは、かなり危険な状況になってしまいます。そこで、写真を発表するための媒体を、自分で確保しなければいけないと思ったのです。写真家のオウンドメディアって感じでしょうか。
現在では、情報を発信している「人」が、とても大事になって来ていて、企業や団体が行なっている顔の見えない情報発信よりも、個人が行っている「顔の見える情報発信」の力が強くなって来ています。また、多くの企業がコンテンツマーケティングをするためにオウンドメディアを作っていますが、そのようなサイトでも、取材者や情報発信者の顔が見えるところまでには、至っていないと思います。そこで、オウンドメディアを一歩進め、個人の顔が見えるものにしたらどうなるのか、このサイトを使って実験してみたいと思っています。
2)人にも焦点を当てたかった
従来の撮影では、出版社に企画を通すために「絵になる被写体」を優先する必要があり、撮影時間の割り振りを、現場で働く人に向けることが出来ませんでした。また、ページ数の都合などにより、現場の人の熱い想いや言葉を伝えるには、文字数が不十分だと思っていました。しかし、最終的なアウトプットを、商業印刷の写真集から自前のウェブサイトに切り替えれば、「派手な被写体」や「絵になる被写体」ばかりを選ぶ必要はありません。それにページ数の制限もありませんから、文章もたくさん載せることが出来ます。取材先に対しても「インタビューもさせてください。」とあらかじめ伝えておけば、写真+インタビューで記事を作れてしまうことに気がついたのです。
また、今までは、見たことのないものを撮りたいという気持ちが強かったため、非常にマニアックなものを被写体として選んできました。それは、写真家としての差別化やブランディングとしては、とても効果的だったのですが、一方で、現在の世の中の評価基準である「共感」という点では、著しく不利な状況となっていました。この問題を解決するには、現場の「人」にまつわるドラマを加えるのもひとつの方策なのではないかと思っています。単に「〇〇です。」という紹介よりも「□□さんが、苦労の末に作った〇〇です。」みたいな紹介の方が、より、〇〇について興味を持っていただけるのではないかと思うのです。
3)社会との関わりを強化するため
コロナ禍が収束した後の世界では、社会と関わらない仕事が、仕事として成立する可能性は、極端に低くなると考えています。コロナ禍は、当たり前が、当たり前として存在しているのは、誰かの努力のおかげだと気づく機会でもありましたし、今、何をすべきなのか、考える機会でもあったからです。中でも社会貢献については、コロナ禍の前から少しずつ話題になることが多くなっていましたが、コロナ後は、間違いなく重要度が加速します。今後は、例えば、娯楽産業であっても、従来の「なんとなく楽しんでもらえれば、いい。」という発想から、お客さまにどのような体験を提供すべきなのか真剣に考えてから提供されるようになるはずです。そのような社会になった時に、写真家として何をするべきか?私の場合は、「日本の現場を応援する」という従来のコンセプトを、より明確にする必要があると感じ、そのためには写真だけではなく文章を加えた形で発表する必要があると考えた訳です。
また、世の中が、様々な点で二極化していっている中で、「自分の仕事」と「社会」との結びつきについても、考える人と考えない人に二分されてゆくと思います。そうなった時に、仕事の付加価値が高いのは、どちらなのか。将来性があるのは、どちらなのか。これからも写真家として生きてゆくためには、そんなことも考えざるを得ません。
4)ネット上での被検索率を上げるため
昨年末くらいからポータルサイトでの検索上位を目指して、このウェブサイトに掲載する記事の書き方などを試行錯誤をしていたのですが、その過程で強く感じたことが二つあります。
まず一つ目は、検索してもらうためには、写真(画像)よりも文章の方が圧倒的に有利だということ。私は、写真家ですので、写真を見てもらいたいんですが、AIは、文章の良し悪しを判断出来ても、写真の良し悪しを判断することは出来ませんから、どんなにいい写真を撮っても、AIに「いい写真が載っているサイトだよ。」と紹介してもらえないのです。その代わり、文章は、きちんとした内容のものを書けば、それなりに上位に来ます。実際、画像検索で上位に表示されるものは、ほとんどありませんが、キーワードであれば、「写真の勉強」とか「伝わる写真」、「写真家になるには」などで、現時点でグーグルの1ページ目に出て来ます。もっとマニアックな単語の組み合わせであれば、トップに表示されるものもあります。
そして、感じたことの二つ目は、私の頭の中にあることだけを文章にしていても、広がってゆかないということです。わたしに書けるのは、写真のことと、せいぜい取材時のエピソードだけです。時事ネタなどを書けば、アクセス数自体は多くなるかもしれませんが、自身のブランディングとしては、それがプラスに作用するとは思えません。であれば、現場の人に話をうかがって記事を書き、写真と一緒に発表するのが、最善であると考えたのです。実際、現場の人の話は面白いので、その面白い話を写真の解説としてではなく、インタビュー記事として掲載すれば、読者にも楽しんでいただけると思いますし、AIに評価されやすく、SEO対策(検索で上位に表示されるための対策)としても有効です。また、従来は、出版社に企画を通す必要があったので、取材先が大企業や国の機関など大規模なものに偏っていましたが、自前の媒体であれば、中小企業をはじめとした色々なところを撮影出来、今までよりも身近な仕事を扱えると考えています。
ウェブサイトを作るのって、すっごく大変ですし、インタビュー記事を書くことに自信があるわけではありませんので、この解決策が閃いてからも実行するかどうかは悩みました。でも、写真家としてやりたいことが出来て、SEO対策としても有効だとなれば、やるしかないでしょう。
5)写真を撮るだけでは、未来が無い?
「日本の〇〇を作る技術がすごい。」みたいなことを、聞く機会って多いと思いますが、そういう話って、大体が部品の話なんですよね。でも、最近は、部品を作るのって、機械やソフトを導入しちゃえば出来ちゃうこともあります。技術にしても、実際の現場に行くと、加工機が国産でも先端に付いている刃物がイスラエル製だったり、検品する時の三次元測定器がドイツ製だったりしていますから、「すごい」部分があっても全体から見れば一部にすぎません。しかも、今、重要視しなければいけないのは、部品を作ることではなく、お客様に渡す最終的な商品を作ることであり、それを企画する立場になることです。価格の決定権は、部品を作る側(下請け)ではなく、企画する側(発注者)が持っているからです。写真だって、何かを伝えるための部品でしかありませんし、物を作ること以上に誰でも出来ることですから、写真だけにこだわっていたら、価格競争のチキンレースに巻き込まれてしまいます。それでは、未来がありません。これから写真を仕事にしようと思っている、もしくは写真家を続けてゆこうと思っている場合は、単に写真を撮るだけではなく、企画から始めて、お客さまにお渡しするまでをパッケージとして製作出来る人、コンテンツを作る人にならなければいけないと思っています。つまり、新しいサイトは、自分自身がステップアップするための挑戦でもあるのです。
最後に
写真を撮ることが簡単になったのであれば、それ以外の部分で努力をしない限り、その他大勢になってしまいます。また、コロナ後は、世の中に必要とされる存在かどうかが、常に問われる社会になってゆくと思いますので、それにも対応しなければなりません。社会との接点を意識しつつ、自分自身を絶えずアップデートすること。それが、写真家として生き残るための課題だと思っています。
以上、写真家西澤丞の悪戦苦闘でした!