写真家が使っているカメラを、撮影した写真とともに紹介します。

はじめに

カメラに対して何を求めるかっていうのは人それぞれだと思いますが、私が一番重要だと思っているのは、確実に撮れるかどうかという点です。壊れない、使いやすい、データのバックアップができる、などがこれに該当します。画質などの点では、今時のカメラであれば、どれであっても不満は無いように思います。キヤノンを使っているのは、高校生の時に雑誌などに載っていた広告の印象が強いからという理由にすぎません。当時見たNewF-1やT-90の広告、特にT-90の新聞広告が強烈でした。また、カメラのデザイナーとしてルイジ・コラーニさんを起用し、それまで直線基調だったカメラのデザインを曲線基調に変えてきたことも、美術関係に就職したいと考えていた自分にとって強烈な印象だったのです。まあ、高校生にNewF-1やT-90が買えるわけもなく、ただ、憧れとして見ていただけなんですけどね。今でも「このカメラじゃなきゃ撮れない!」といった特殊なものを撮っているわけではありませんので、高校生の時の印象のままキヤノンを使っています。よって、この記事にもキヤノンのカメラしか出てきません。悪しからず。

キヤノン New F-1  1990年〜2009年

無骨なデザインとつや消しの塗装が印象的で、シャッター音が、いかにも撮影していますって気持ちにさせてくれるカメラです。中古で買って1990年くらいから使い始め、2000年の独立を挟んで、2009年くらいまでずっと使っていました。2000年くらいになると、他のカメラマンさんは、だいたいEOS-1Vなどのオートフォーカスのカメラを使っているのが普通でしたが、私はそれらを使わずに、ずっとこれを使っていました。お金が無かったっていうのもありますが、スポーツなどを撮っていた訳ではありませんでしたので、変える理由も感じていませんでした。また、モータードライブ(フィルムを電動で巻き上げる装置)をつけずに手巻きで撮影をしていたので、モデルさんに「何やってるの?」と聞かれたこともあります(笑)フィルム巻き上げノブが黄色に塗ってあるのは、フィルムが確実に巻き上げられているのを確認しやすくするためです。ロゴなどは、もともとは白で塗装されていたものをマジックで塗りつぶしています。理由は、はっきり覚えていませんが、ガラスなどに写りこむのが嫌だったんだと思います。

撮影地:KEK 撮影日:2005年7月28日

2006年に出版した写真集「Deep Inside」の表紙に使った写真です。当時は、ネガフィルムで撮影して、それをスキャナーで取り込み、色調整などをして完成としていました。当時は、ポジフィルムで撮るのが一般的だったと思いますが、ポジですとラチチュード(今風に言えばダイナミックレンジ?)が狭すぎて、データとして捉えた場合には、後工程での調整が難しくなってしまうからです。

撮影地:首都高速道路株式会社 撮影日:2006年1月17日

フィルムで撮影していた時は、現像が上がってくる(フィルムが現像業者から返ってくる)まで結果がわかりませんから、ドキドキでした。カメラが壊れていても気がつかない可能性もありましたし、現像所が現像に失敗することもありましたので、重要なシーンでは2台のカメラで撮影していました。当時は、写っていることが当たり前ではなく、失敗する要素が、そこら中に地雷のように埋まっていた感じです。私は、幸いなことに、写っていなかったという最悪の事態は経験していませんが、単に運が良かっただけなのかもしれません。

撮影地:首都圏外郭放水路 撮影日:2004年9月1日

この場所は水蒸気が充満している状況でしたので、持っていった2台のうち1台は、シャッターが切れなくなってしまいました。防塵防滴なんて機能はありませんので、どこからか水が入ってしまったんだと思います。このカメラを使っている時は、小雨でも注意が必要でした。

この記事を書いていて気がついたんですが、この頃はずっと中古のカメラで撮ってたんですね(笑)

キヤノン EOS-1Ds Mark3  2009年〜2016年

2007年に発売された2000万画素くらいのカメラです。このカメラが出る前にもデジタルカメラがいくつか発売されていましたが、それらは画素数が少なかったので、試しに使っていた程度で主力にはなりませんでした。このカメラが出たことで、フィルムをスキャナーで読み込んだ時と同程度の画素数になり、デジタルに切り替える気になりました。また、当時、どうしても撮りたいと思っていた被写体が、フィルムのざらったとしたトーンよりも、デジタルのつるっとした雰囲気の方がピッタリだと思っていたので、それも後押しとなりました。ダイナミックレンジが、かなり広いので、撮りっぱなしでは、ぼんやりしたトーンになってしまいますが、地下の工事現場とか工場内のように照明のコントラストが高い場所でも安心して撮影できます。

このカメラは、めちゃくちゃ高かったんですが、たまたま海外の企業が写真を使ってくれるというタナボタ的なことがあり、購入できました。

撮影地:核融合科学研究所 大型ヘリカル装置 撮影日:2009年2月6日

EOS-1Ds Mark3を買ってすぐに撮ったのが、この写真です。最新の研究設備を表現するためには、フィルムのザラッとした質感が似合わないと思って、どうしてもデジタルで撮りたかったんです。カメラを変えたことにより、レンズもFDレンズからEFレンズに切り変えたのですが、当時は、カメラの性能にレンズが追いついていない感じでした。この写真は、単焦点のレンズを使ってるんですけど、最近のズームレンズの方が、はるかに優秀です。

撮影地:JFEスチール株式会社 撮影日:2015年10月8日

こちらは、当時発売されたばかりのレンズEF16-35mm F4 ISを使って撮影した写真です。このサイズではあまり分からないかもしれませんが、細かなものまで鮮明に写っています。撮影した写真を1メートル以上の大きさに引き伸ばして展示したことは何回もありますが、2000万画素を確保出来ていれば、画素数が不足しているということは感じませんでした、ただ、この頃に出て来た新しいレンズはとても解像度が高くなっていましたから、3000万画素とか4000万画素のカメラで撮影したらどうなるんだろうという思いが強くなっていました。また、このカメラを屋外で使うと背面モニターが良く見えないため、ヒストグラムを確認することもままならず、デジタルカメラなのに撮影結果をその場で把握できないことがあり、もどかしく感じていました。

撮影地:JAXA 内之浦宇宙空間観測所 撮影日:2013年8月21日

この写真は、写真集の表紙にも使った写真ですが、実は、EF50mm F1.8 IIという1万円以下で売っていたレンズで撮影しています。F値が明るいレンズの方がいいレンズだと思われがちですが、解像度だけを考えれば、F値が暗いレンズの方が優秀だってこともあるのです。当時は、F1.4のレンズも持っていましたが、もっぱらこちらの暗いレンズを使っていました。東京都現代美術館で3メートルくらいの大きさで展示してもらいましたが、画質も解像度も問題ありませんでした。

キヤノンEOS5D Mark4   2016年〜

1Ds Mark3と新しいレンズの性能のバランスが悪いなあと思っていたところに出て来たのが、このEOS 5D Mark4です。このカメラは、発売前にキヤノンさんからお借りして発売キャンペーンに参加させていただいたのですが、使ってみてすぐに購入を決めました。全体のバランスがとても良く、使いやすいんです。ひとつ問題を挙げるとすれば、解像度が良くなったことにより、レンズのピント位置がシビアになってしまったことです。ピントがちょっとずれているだけでも分かってしまいますから、撮影前には、マイクロアジャストメントという機能を使って、各レンズごとにピントの位置を微調整しなければならないのです。ズームの場合は、短焦点と長焦点の両方を調整しなければいけませんので、大変です。これは、正直、めんどくさい。

撮影地:宇部興産株式会社 撮影日:2016年7月22日

キヤノンさんからカメラを借りている時に撮った写真です。いや、もう、めちゃくちゃ細かなところまで写っていて驚きました。3000万画素くらいですが、普通の人が使う分には、全く問題のない画素数だと思います。ただ、慣れというのは、恐ろしいもので、先ほどのピント精度の問題とオートフォーカスエリアが狭いことが不満になって来ました。ピント精度は、確認作業に時間を取られますから、撮影が立て込んでくるとスケジュールの調整に影響してきます。また、オートフォーカスエリアが狭いと、画面の隅に主要な被写体を配置する機会が多い自分の場合は、いちいちカメラを振ってピントを合わせ、それから構図を決め直す作業をしなければならず、撮影のチャンスを逃すことにもなってきますから、こっちも気になります。

撮影地:横浜環状北西線 撮影日:2018年9月6日

この写真のように、構図をビシッと決めたいんだけど、ピントを合わせたい人物が動いているような場合、人物が移動するたびにカメラを振ってAFポイントと人物を合わせるのはかなりわずらわしい作業です。三脚に据えることができれば、ライブビューで画像を拡大しながらマニュアルで合わせることもできるのですが、この時は三脚を立てられず手持ちで撮っていました。

撮影地:横浜市資源循環局 旭工場 撮影日:2019年8月9日

一眼レフで撮影していて苦労するのは、このような構造物をビシッと撮影する時です。フォーカシングスクリーンに刻まれたグリッドを基準にセンターや平行を合わせても、フォーカシングスクリーンとセンサーがずれているため、狙った通りに写らないのです。また、レンズの湾曲収差で上下部分の画像は歪んで見えるため、そもそも平行が非常に合わせづらいのです。この写真では、三脚を使える状況でしたので、ファインダーではなくライブビューを使いながら合わせました。

キヤノン EOS R5 2021年〜

EOS R5は、キヤノンさんに貸してもらって、その快適さにやられてしまいました。コロナ禍で収入が減っていますので1台しか購入できていませんが、このカメラは、写真が上手くなったんじゃないかと錯覚してしまうカメラで、ちょっと危険です(笑)ただ、バッテリーの減りは、早いですね。私は、シャッターを切る回数が少ない方だと思いますが、それでも1日撮影しているとバッテリーの交換が必要になってきます。

撮影地:尾瀬須藤林産 撮影日:2021年1月26日

この写真を撮った時には、RFレンズを入手できておらずEFレンズをアダプター経由で使っていましたが、その組み合わせでも手振れ補正はバッチリ効きます。この写真のシャッタースピードは1/4秒ですが、被写体が動かない限り、ビシッとした写真が撮れていました。また、測距点の数が多いので、構図を決めてからピントを合わせるためにカメラを動かす必要がありません。ピントの精度もとても高いです。ただ、瞳AFは、めちゃくちゃ効く時とうまく効かない時があるようで、今後、色々なシーンで撮影してみて使うべきかどうか判断する必要がありそうです。

撮影地:那珂核融合研究所 撮影日:2021年2月15日

このカメラはミラーレスカメラですが、ファインダーをのぞいている時にモニターを見ているという違和感は、あまり感じません。また、一眼レフの時に気になっていたファインダーと実画像のずれは、ミラーレスになったことで解消されました。レンズの湾曲収差も補正された状態でファンダーに表示されますので、ストレスフリーです。このことは、あまり言及されていませんが、個人的には一番うれしい改善点かもしれません。

終わりに

今まで使って来たカメラとそれらで撮影した写真を改めて見直してみましたが、いい写真が撮れるかどうかってことは、カメラがどうのこうのってこととあまり関係が無いいみたいですね。私にとってカメラは仕事道具ですので、それなりのこだわりはありますが、単なる道具だと思っている部分もあって、執着は無いのかもしれません。それに、条件が揃うまで待つよりも今の条件で出来ることを探す方が好きなので、手元にあるカメラで撮れるものを探した結果、今の撮影スタイルになっているってことも影響しているのかもしれません。

新しいカメラを手に入れれば、今まで撮れなかったものが撮れるとか、画質が良くなってビシッと写るってことはありますから、カメラを買い換える価値はあります。ただ、これから写真を始めようかと思っている若い人には、いい写真を撮るのには高いカメラが必要だなんて勘違いをしないでほしいと思っています。そんなことで写真を撮るのを諦めてしまったらもったいないですから。

以上、写真家西澤丞の悪戦苦闘でした!