写真家西澤丞に影響を与えた写真家ユージン・スミスとデザイナーのシド・ミード

私には、写真家になる前から、そして写真家になってからも、影響を受けている人が二人いる。

写真家が影響を受けた写真家(ユージン・スミス)の写真集-表紙
私が教科書で見た水俣病の写真は、画面右に写っている最近の写真集には掲載されていない。
写真家が影響を受けた写真家(ユージン・スミス)の写真集-中面
掲載されていないのは、被写体となった方のご遺族が掲載を望んでいらっしゃらないからのようだ。

一人目は、写真家のウィリアム・ユージン・スミス(William Eugene Smith)さん。

ユージン・スミスさんの写真を初めて見たのは、おそらく中学生の時。教科書に載っていた水俣病を紹介する写真だ。写真のインパクトがすごかったことと、水俣病は日本のことなのに写真の隅に書かれていた撮影者の名前が外国人だったので印象に残った。その後、高校生になって自分で写真を撮るようになると、「あの時に見た写真は、ユージン・スミスさんの写真だったんだ!」と再認識することになる。彼の撮影する写真は、ジャンルで言えば、ドキュメンタリー写真か報道写真に分類されるのだろう。しかし、単なる記録写真には収まらず、戦場を撮っていても、悲惨な現場を撮っていても、どこか美しく、画面に吸い込まれてゆくような臨場感がある。彼の目を通して自分が追体験をしているような気持ちになるのだ。私が、臨場感にこだわるのは、間違いなく彼の影響だ。また、私が写真を撮る時に、1枚の写真として考えるのではなく、ひとつのストーリーとして考えながら撮影しているのも、彼の影響だ。これらは、今まであまり意識したことはなかったのだが、この文章を書いていて気がついた。それくらい意識の深いところで影響を受けているのだ。

今年(2021年)の9月には、ユージン・スミスさんを主人公にした映画「MINAMATA」が公開されるようだ。YouTubeで予告編を見ると、ユージン・スミス役のジョニー・デップさんが、ゆっくりと印象的に「Focus on photograph you want to take. Focus on what you want to say.」というセリフを語る。これは、彼が実際に言った言葉なのか、映画でのセリフなのかわからないが、私がいつも考えている「写真にとって重要なのは、伝えるべき内容だ。」ということとも合致する。映画は映画なので、事実と異なる部分があると思うが、ユージン・スミスさんを知らない世代の人にもぜひ見てもらいたいと思う。私も、もちろん期待している。

写真家が影響を受けたデザイナー(シド・ミード)の作品集-表紙
写真家が影響を受けたデザイナー(シド・ミード)の作品集-中面

二人目は、工業デザイナーでイラストレーターのシド・ミード(Syd Mead)さん。

このウェブサイトのプロフィールにも書いているが、私は写真の仕事をする前は、デザインの仕事に就いていたことがある。きっかけは、雑誌に載っていた、映画「ブレードランナー」のためのデザイン画だ。映画に出てくる車を中心に、主人公が暮らす家や街の風景などが描かれていて、雑誌のラフな印刷からでも尋常ではない説得力や雰囲気が溢れ出していた。工業デザインなんて職業があることも知らず、映画を作るために、ここまで詳細なデザインが行われるなんてことも知らなかった高校生にとっては、まさに衝撃だった。いや、そういうことを知っていたとしても、彼の描く世界自体が衝撃だったかもしれない。

私が、今、写真をやっているのは、デザインの世界では自分の限界が見えてしまったからだ。しかし、人生の一時期とはいえデザインに興味を持ったおかげで、撮影する前の企画や目標の立て方などにはデザイン的な思考が活きていて、それが差別化になっていると思う。また、メカニカルな物への興味や、被写体への光の当て方に関しても多大な影響を受けているはずだ。

ユージン・スミスとシド・ミードに影響を受けた写真家が撮影した写真
私、西澤が撮影した写真。

ユージン・スミスさんとシド・ミードさん。私が影響を受けた人は大勢いるが、この二人は特別だ。二人の創作物を見るたびに、どうやったら彼らに近づけるのか、自問してしまう。私にとって、永遠の目標であり、心の師だ。

以上、写真家西澤丞の悪戦苦闘でした!