写真集の印刷を印刷会社さんに発注する! 注意点や段取りをまとめてみた。
はじめに
印刷会社である加藤文明社さんと一緒にZINE(自主制作写真集)を作るもの2回目になったので、「自分も作ってみたい」と思っている人の参考にしていただけるように、写真集の印刷を印刷会社さんに発注する時の段取りや注意すべき点をまとめてみることにした。
なお、この記事は、加藤文明社さんにお願いする場合の段取りをまとめたものなので、他の会社に頼む場合は、段取りが変わってくることを、あらかじめお断りしておく。また、今は、ネットで注文できる印刷会社も多数存在していて、値段だけを比べれば、びっくりするような安い金額の会社もある。ただ、何が違うのか、正直よくわからない。そこで、会社を選ぶときの参考にしていただけるように、ZINE作りを通して知った印刷のポイントも一緒に書いておく。
印刷機の特性を知る。一般的な印刷とデジタル印刷との違いについて。
ネット印刷の会社でも、「オンデマンド印刷」と書かれている場合は、デジタル印刷機で印刷していると思うんだけど、一般の印刷で使われるオフセット印刷との違いについて、具体的な記述は無い。激安の会社になると、そもそも印刷機のことなんか書いてない会社もある。こだわらない人にとっては、印刷機なんてどうでもいいことなので、それはそれでいいと思うんだけど、写真集や作品集を作ろうと思っている人にとっては、気になる点だ。そこで、一般的な印刷物を刷る時に使うオフセット印刷と、少部数印刷で使われているデジタル印刷の違いを書き出してみる。
特徴、その1 色域の違い
加藤文明社さんが少部数印刷の時に使っている印刷機は、Fujifilm社製のJetPress 720Sという大きなインクジェットプリンターのようなデジタル印刷機だ。JetPress 720Sの最大の特徴は、発色の良さ。オフセット印刷に比べ、表現できる色域が広いのだ。自分の写真が印刷物になった経験が多ければ、この印刷機の色域の広さに驚くはずだ。ただ、デジテル印刷機にも色々あるので、ネット印刷の会社の発色が必ずしも良いとは限らない。使っている印刷機次第だ。また、オフセット印刷だって、お金をかけて特色を使えば、表現できる色の範囲がものすごく広がるんだけど、この記事では、そこまで触れない。
特徴、その2 紙と印刷機の相性
オフセット印刷が、圧力をかけてインクを転写する方式なのに対して、JetPress 720Sは、インクを吹き付ける方式なので、表面に凸凹のあるような紙では、奥までインクが届かないことがある。紙の商社である平和紙業さんと一緒に行ったテスト印刷の結果を見ると、「質感があるね。」という程度の紙なら大丈夫だけど、キャンバス地みたいな紙では、奥までインクが届かない。印刷する絵柄や用途によっては、それも含めてOKとなる場合もあると思うけど、写真のディテールをきちんと見せたい場合は、ちょっと厳しいのかなという印象だ。
また、平滑な紙でも色の再現性が違ってたりするので、どんな感じに仕上げたいのかを印刷会社さんに伝えて、お勧めの紙を教えてもらうのもありだと思う。写真をきちんと再現したい、冊子に質感を持たせたい、人と違うものを作りたい、色々なことを考えると思うけど、素人には、紙と印刷機の相性なんてわからないからね。
特徴、その3 割付の違い
オフセット印刷では、1枚の紙の片面に8ページ分くらいを配置して一度に刷るんだけど、デジタル印刷では、片面のすべてに同じページを印刷することができる。これにどんなメリットがあるかというと、冊子の途中で紙の種類を変えやすいということだ。オフセット印刷では、16ページごとにしか紙の種類を変えられないが、デジタル印刷では、極端な話、2ページごとに変えることも可能だ。また、オフセット印刷では、1ページ分の色を変えようとした場合、同じ紙に刷る他のページにも影響してしまうが、デジタル印刷では、1枚の紙に同じ絵柄を割り付けることが出来るので、他のページに影響を与えずに済む。
こういう話は、ネット上にもあまり書かれていないし、途中で紙を変えるなんてことに対応してくれる会社は、少ないと思う。でも、この記事を読んでいるようなこだわりの強い人であれば、「そんなことができるなら、扉だけ紙を変えてもらおう!」なんてアイディアが出てくると思うし、加藤文明社さんなら相談に乗ってくれるはずだ。
特徴、その4 版の有無
デジテル印刷が、オフセット印刷よりも安く印刷できるのは、版を作らなくてもいいからだ。オフセット印刷では、アルミ板を使ってインクを乗せるための版を作る必要があるのに対して、デジテル印刷機では、それが不要で、データから直接印刷することができる。また、オフセット印刷では、刷り上がりの色を変えたいと思った時に、版を作り直さなければいけないこともあるので、場合によって大ごとになってしまうが、デジタル印刷では、データを修正するだけだ。商業出版の写真集では、基本的にオフセット印刷を使うので、色校正が出てきた時に気に入らないページがあったとしても、版を作り直すような修正をしてくれることは、ほぼ、無い。刷る時にインクの濃度を調整してくれる程度だ。版を作るのは、そのくらい大変。
データを扱う環境を整える
印刷を発注する時に気になるのは、自分の思ったような色で印刷されるかどうかという点だ。印刷するものが写真集や作品集であれば、尚更だ。しかし、きちんとした色で刷ってもらうためには、まずは、自分自身の画像データを扱う環境を整える必要がある。僕の場合は写真家なので、現像する時には、特に気をつけている。
印刷会社さんはプロなので、いい加減なデータでも色見本をお渡しすれば、ある程度までは色を合わせてくれる。でも、最大限のいい結果を望むのであれば、自分の作るデータもきちんとしておかないとね。具体的には、以下のように設定している。
・パソコン周辺の環境光について
パソコンで写真の現像をする時には、遮光カーテンを閉めた上で、色評価用の蛍光灯を点けて、いつも同じ環境光で作業出来るようにしている。外の光が入ってくるような環境だと、同じデータを表示していても見え方が違ってきちゃうからね。
・データを表示するモニターについて
キャリブレーションに対応しているモニターは必須だ。僕が使っているのは、EIZO株式会社のCS2420という機種。ちょっと前の機種だね。このモニターは、点灯させてからしばらく経たないとコントラストが正常にならないから、そのあたりも注意して使っている。
・細かなこと
現像する時には、黒か濃いグレーの服を着て、モニターに自分が写り込まないようにしている。また、夜遅くまで作業した時は、次の日に、もう一度確認するようにしている。色や明るさって、体調によって見え方が違うので、疲れている時に現像した写真を後で見直すと、「あれ?」って思うような仕上がりになっていることが多いからね。
デザインする
印刷機や作業環境の話が長くなってしまったが、それらのことをきちんと把握した上で、ようやく実作業に入る。何事も段取り八分ってことだ。
さて、加藤文明社さんでは、アドビのイラストレーターやインデザインで作ったデータをはじめ、ワードやエクセルで作ったデータでも受け取ってもらえる。ただ、印刷できるデータに変換する手間がかかる場合は、追加料金が発生してしまうので、事前に相談した方が良い。僕は、イラストレーターで1ページずつデザインし、ファイル名にページ数を記載してお渡しした。また、デザインデータに画像を貼り付ける場合は、画像データを直接貼り付けるのではなく、「リンク配置」にしておく。印刷する際には、お渡しした画像データをそのまま印刷するのではなく、加藤文明社さんの方で、調整をした上で印刷してくれるからだ。データに直接画像を貼っちゃうと、調整した後で画像を差し替えるのが大変になっちゃうからね。
また、版下(デザインデータ)やロゴの作り方など、デザインする時の詳細は、過去の記事「ZINE(自主制作写真集)制作記 第4回 ロゴや版下を作るよ。」に書いてあるので、そちらを参考にしてほしい。
入稿
印刷会社さんには、レイアウトデータと画像データ、それに色見本をお渡しする。色見本は、可能なら印刷する大きさと同じ大きさで作った方がいい。写真は、出力する大きさによって見え方が違ってくるからだ。一般に、大きく出力する場合は濃い方が見栄えがいいし、小さく出力する時は、明るくした方がきれいに見えると思う。僕の写真データは、大きなサイズで出力することを想定しているので、現像する時に、少々濃い目の仕上げになっている場合が多い。だから、小さく掲載する場合は、データ自体も明るく調整し、そこから色見本を作っている。
印刷会社を選ぶ時の基準は?
最後に金額設定について書こうと思っていたのだが、すまん。ここに具体的な数字を書くことは出来ない。大人の事情だ。察してほしい。
じゃあ、金額以外で印刷会社を選ぶ時の基準って何なのかって話になるんだけど、それは相談しやすいかどうかってことになると思う。ネット印刷の会社では、紙の種類や判型について一定の基準が設けてあって、その中から選ぶ方法なのに対して、加藤文明社さんは、紙や印刷サンプルを見ながら打ち合わせをすることも出来るし、判型についても制限はない。一般的なものでは我慢できない人向きだ。
ちなみに加藤文明社さんに相談すると、以下のような流れなる。作りたいものがきっちり決まっていれば、見積もりを出してもらって、入稿方法などの擦り合わせへと進む。一方、作りたいものがぼんやりとしか決まっていない場合は、まずは打ち合わせだ。打ち合わせをする際には、実際に印刷する現場で、印刷機を見ながら行うのもいいだろう。この時、予算の上限を伝えておけば、それを加味して、紙の種類、色校正の有無、刷り部数などを提案してくれるので、スムーズに進むと思うよ。そして、具体的な仕様が決まったら見積もりを出してくれるので、それを検討すればいい。
おわりに
自主制作で写真集を作ろうと思い立ってから、ネットで発注できる会社を色々調べたけど、正直、どこに発注すればいいのか分からなかった。値段だけを考えれば、ある程度絞られるが、一生懸命撮影した写真だし、僕の写真の場合、カチッとした仕上がりの方が似合うと思ったので、全く先が見えなくなってしまった。
もし、あなたが僕のように悩んでいるのであれば、加藤文明社さんに相談するのもありだと思う。加藤文明社さんは、「相談できる印刷会社」を目指していて、実際に相談しやすかったからこそ、僕も一緒に作ろうと考えたからだ。なお、加藤文明社さんに相談する際には、加藤文明社さんの少部数印刷に特化した部門である「atelier gray」に連絡すると話が早いよ。
おっと、いかん!これじゃあ、まるで加藤文明社さんの営業みたいじゃないか。でも、まあ、仕方がない。僕は、現場で「いいな!」と思ったことを伝えるのが仕事だからね。
以上、写真家西澤丞の悪戦苦闘でした!