写真家の仕事とは?自主撮影、依頼撮影、写真貸出、講演。

撮影だけじゃないんです。

 以前、とある地方の工場で、こんなことを言われました。「この辺の人にとって、東京から来た写真家なんて、宇宙人みたいなもんですよ。」これは、極端な例としても、「写真家って、毎日、写真を撮ってるんですか?」と聞かれることは、結構あります。つまり、一般の人にとっては、写真家っていうのは、何をしているのかよくわからない人の一人なのです。よく分からない人では、ギャランティーももらえませんし、撮影なんかの協力もしていただきにくいですから、私の仕事内容を文章にまとめてみたいと思います。写真家さんの中には、毎日撮影に出ている方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでは、私の仕事について書きます。


 私の仕事は、だいたい4つに分かれます。自主的な仕事、写真の貸し出し、依頼での撮影、講演の4つです。それぞれについて説明しましょう。

写真家の仕事 自主的な仕事について

 自主的な仕事とは、写真集のための撮影と写真集作り、私自身の認知度向上に関わること、つまりウェブサイトやSNSでの活動などもここに入ります。
 私の場合、勝手に撮影できるところは、まずありませんので、何をするにもまず、取材先に撮影の許可をいただかなければいけません。企画書をはじめとする交渉のための資料作りから始まって、場合によっては安全教育を受けなければいけないこともありますので、撮影に至るまでの段取りに一番時間がかかります。交渉には、何ヶ月もかかることがありますし、ずっと交渉した挙句、「不可」なんてこともありますから、精神衛生上、あまりよくありません。交渉では、最長で7年かかったことがあります。その時は、途中で2回断られています。何ヶ月も交渉した後で断れてしまうとがっくり来ちゃうんですが、大きな組織は、2〜3年で担当者が異動しますから、一度断られた取材先でも再度交渉するチャンスはあります。どうしても撮りたければ、その間、待つしかありません。誰でも待つのは苦手だと思いますけど…。また、その逆で、広報活動に前向きだった担当者が異動になってしまって撮影しにくくなることもありますから、取材先の異動の時期は、ちょっとドキドキです。
 さて、撮影が、ある程度進んで、本を作ろうと思うと、今度は、出版社相手の交渉が始まります。ここでも、やっぱり企画書などの書類作りから始めなければいけません。そして、実際に本を作ることになれば、写真を選んだり、ページの流れが良くなるように並べてゆく作業がありますし、文章も書かなければいけません。やることが、いっぱいです。人によっては、写真を撮り終わったら、後の作業は、編集さんやデザイナーさんにお任せすることもあるようですが、私の場合は、ほとんど自分で行います。被写体が特殊ですから、私以外では、写真の持つ意味や前後関係を理解できないのです。また、写真を選ぶ以外にも、解説文も書きますし、タイトル案や帯文などについても、積極的にアイディアを出してゆきます。タイトル案や帯文については、編集さんやデザイナーさんの提案を受け入れることもありますが、実際に現場に行っている自分の案が採用されることが多くなっています。タイトル案はいくつも考えますし、序文は、きちんと意味が伝わるように、そして読みやすくなるように、何度も、何度も、書き直します。ただし、インタビュー記事を、自分でまとめることはしません。インタビュー対象者に質問することはしますが、まとめるのはライターさんか編集さんにお任せします。
 撮影をするにも出版するにも、実際に手を動かすまでに、とても時間がかかるのですが、時間がかかるのには理由があります。今の日本は、前例のないことを極端に嫌うからからです。私は、出来る限り、誰も撮っていない所を撮りたいと思っていますし、すでに誰かが撮っているなら違うアプローチをしたいと思っていますが、そのようなことをやろうとすると、取材先は、「なんかあったらどうするんだ?」から始まり、取材を受け入れる時のルールづくり、他の取材を断る理由探しをしなければいけないことになります。出版社にしてみれば、「類書が無いから判断できん。」となる訳です。色々な業界で、すでに売れている企画のアレンジやリメイクが流行るのも納得です。
 ウェブサイトについては、新規のお客様を獲得することや新しい取材先に過去の実績を紹介する際にも活用していますので、これも手を抜けません。私がウェブサイトを自作し始めた頃(2005年くらい?)は、他のウェブサイトからのリンクが、ウェブサイトの価値の判断基準だったのですが、最近は文章に重きが置かれているようですので、きちんとした文章をアップしないと検索の上位に出て来ません。写真など、画像製作に関わっている人には、厳しい状況なのですが、検索をした時に表示されなければ、存在しないと同じですから、これも試行錯誤中です。

写真家の仕事 写真の貸し出しについて

 「写真を貸して欲しい」というご依頼をいただくことがあります。私の場合、これにも時間が掛かります。取材先に、依頼主の企画内容を伝えて、その都度、使ってよいかどうかの相談をしているからです。著作権は私にありますから、法律の上では、承諾を得る必要はないと思うのですが、現場の安全基準が撮影当時と違っていれば、その写真を、撮影日の記載なく使ってしまうと取材先に迷惑がかかってしまう場合もありますし、取材先の合併などで撮影地としての名称を変えなければいけない場合などがあるからです。少々、めんどくさいのですが、取材先とマメにやり取りすることで、取材先に忘れられずに済むという利点もありますし、それをすることで信頼していただけるという効果もあると思っています。

写真家の仕事 依頼での撮影について

 こちらは、私のところに話がくるまでに、広告代理店さまや依頼主さまが撮影するまでの段取りを済ましてくださっているので、自主的な仕事に比べて掛かる時間は少なくなっています。場合によって、ロケハンをするかどうかといったところです。以前やらせていただいたお仕事では、写真の現像をレタッチャーさんがやってくださいましたので、私の仕事は、現場でデータを渡すところまででした。
 また、依頼仕事と自主的な撮影とのギャップに悩むなどの意見を見ることがありますが、私の場合、依頼仕事と自主的な撮影との違いは、ほとんどありません。自主的な撮影でも誰に何を伝えるのか、きちんと決めてから取り掛かっていますので、依頼仕事の場合でも、相手や内容を変えるだけで済むからです。最近では、私の活動コンセプトを理解してくださった上で依頼してくださる方もいらっしゃいますから、そのような場合は、自主的なものと、ほとんど同じだったりもします。ありがたい限りです。

写真家の仕事 講演について

 これは、数年前から時々いただくようになったお仕事です。以前は、人前でしゃべる機会なんかほとんどありませんでしたから、自分に出来るのかどうか迷っていたのですが、意外と評判もよく、最近では、「話すことも、伝えることの一部」だと思えるようになりました。本を作っても、読者の顔を見ることはほとんどないのですが、講演であれば、直接、感想までいただけるので、面白いです。講演は、頻度の少ない仕事ですから、他の仕事に比べれば使っている時間も少ないのですが、1時間の講演でも事前の準備には何日も掛かります。講演は、話す時間も相手も違うことが多いので、その都度、構成を考えなければいけないからです。構成を考えるということは、本を1冊編集するようなものです。話す内容は、撮影に関するものは当然として、BtoB企業の広報に関して社長さんや社員さんの前で話したり、福島第一での撮影について一般の人向けに話したりなど様々です。小学校6年生に「仕事について」というテーマで話をさせてもらったこともありますから、相手によって「この単語、わかるかな?」ということから考える必要に迫られます。

 こんな感じですから、撮影している日よりもデスクワークをしている日の方が圧倒的に多いんです。あくまで、私の場合は、ですけど。

 以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!