「思考の整理学」(外山滋比古著)という本を読んでみた。

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この本で、著者が言いたいのは、「自分の頭で考えなさい」ということであり、「考えをまとめるためには、こんなことをしたらいいよ。」というアドバイスだと思う。

思考が変われば、物の見方が変わり、物の見方が変われば行動が変わる。だから、思考を深めることはとても大切だ。もちろん、著者が言うように自分の頭で物事を考えることも大切だ。ただ、この本では、思考と行動の関係については、ほとんど触れていない。少しだけ問題提起として書かれているのみだ。

この本が文庫本として世に出たのが、1986年。そこから36年で263万部も売れ、東大生や京大生も好んで読んでいると帯に書いてある。一方、日本は1990年頃にバブルが崩壊して、失われた30年に突入した。この本が読まれていた期間と失われた30年が重なっていることに気がつくと、少々複雑な気持ちになる。

本書の存在を、学校の先生が論文の執筆に悩む学生向けに書いたものだと理解すれば、特段気に留める必要もない。しかし、そのようなハウツー本ではないと、著者もあとがきの中で書いている。実際、本書は、自分の頭で考えることの必要性から語り始め、途中、考えを精査していてゆく方法に触れつつ、新たな着想を得るためには、他分野との交流が大切だと述べ、最後は創造性が必要な世の中が来ると説いて終わっている。これらのことを考えると、タイトルは「思考の整理学」となっているものの、著者の真意は、新たな発想を生み出すための手助けだと読み取れる。それを理解した上で本書を振り返ると、思考と行動の関係についてページが割かれていない点が、どうにもモヤモヤする。失われた30年では、前例のない行動は忌み嫌われ、何も行動しない事が良しとされてきた。そして、今があるからだ。

「行動をしなければ、思考を次の段階に進めることはできない。考えているだけで行動をしなければ、考えることの意味すらない。」と考えている自分には、この本の魅力は理解できない。ただ、この本が売れている理由は、わかる。思考と行動を結びつけていないので、思考だけを頼みに生きている人たちにとっては、受け入れやすいからだ。文庫本以前に書籍として発表されたのは、40年も前の話なので、今を生きている自分が、過去の著者に対して何かを言いたいという話ではない。ただ、今もこの本が支持され売れ続けているのであれば、失われた30年は、これからも続くんだろうなと思ってしまった。