ステートメントの書き方。写真の場合。
はじめに
写真家って、外から見たらどんなイメージなんだろうか?「裸の女の子でも撮ってんじゃないの?」とか「何をやってるのかよくわからない人」っていう印象なんだと思う。実際に言われたことがあるし…。まあ、いずれにしても、あんまりいい印象じゃないよね。じゃあ、なんでそんなイメージになっちゃったかと言えば、簡単だ。今までの写真に対する考え方が、「好きだから撮る。伝わらなくても構わない」みたいな、内側に閉ざした考え方だったからだ。僕が写真に興味を持ち始めた昭和の時代から、つい最近まで、「写真は自己表現」だと言われてきたからかもしれない。でもね、最近になって、やっと様子が変わって来た。写真家を評価するポイントの一つに、「なぜ撮影したのか?」という動機が加わったからだ。いわゆるステートメントってやつだね。このまま上手くゆけば、写真家が外に目を向け、社会と関わる方向に向いて行きそうだ。そうでなければ、写真家の社会的地位なんて、ずっと低いままになっちゃうからね。
ステートメントって何だ?
ステートメントっていうのは、僕も最近聞くようになった単語なので、ちょっと調べてみたら、写真を発表する時に添える声明文のようなものってことらしい。僕は、20年くらい前から伝えたいことや動機、目的を文章にしていたので、正直、今更な感じもする。ただ、なんで言葉が必要なのか理解できない人も多いと思う。先にも書いたように「言葉に出来ないから写真を撮るんだ」とか「撮る前に理屈なんて考えるな」と考える方が一般的だったからだ。でもね。本当は、写真を撮るのと同じくらい言葉が重要なんだよ。本人が何を伝えたいのかぼんやりしたまま写真を撮っても、写真を見る人には、もっとぼんやりしたものしか伝わらないから。また、撮影した後から撮影した目的を考える人がいるけど、後からじゃ意味がない。撮影前に考えるから、写真がシャープになるんだ。後から考えた人は、ポエムみたいな文章になるから、すぐバレるしね。
どんなことを書けばいいのか?
僕は、コンテストに応募するためのステートメントを書いたことがない。ただ、大企業や国が運営している団体に取材を受け入れてもらえたのは、伝えたいことや撮影の目的を文章にしていたからだと思う。だから、そういった視点で僕なりにステートメントに必要だと思われることを書いてみた。
・撮影の動機
ステートメントを書く時は、1枚の写真について書くものではなく、活動全体について書くことになると思うので、活動をするきっかけとなった事を書く。誰でも知っているような内容じゃだめだ。説得力がない。あなたが直接経験したことを書くことで、相手の心に響く文章になる。
・撮影の目的
写真で何をしたいのか。それを書く。新しい価値観や視点の提案。社会的な問題の解決。まだ知られていない物や事の紹介。色々な目的を考えられるはずだ。僕の場合は、まだ知られていないことを伝えて社会の問題を解決するっていうのを目的にしている。また、動機には個人的なことを書くのがいいんだけど、目的は個人的なものじゃダメだ。出来る限り大きなものにしよう。大きな目標にすることで、多くの人が自分の問題として関われるようになるからだ。それに、手近な目標って、すぐに到達しちゃうから、長く続けようと思ったら、大きな方がいいっていう理由もある。
・社会との関わり方
写真は、現実に存在するものしか撮れないので、写真という媒体を使うのであれば、撮影者が社会とどのように関わっているかが重要だ。そして、その関わり方が、写真家の存在意義にもなる。だから、これも必須だ。写真を撮ることで、どんな社会にしたいのか。写真の持っている力を、どこに使うのか。
ステートメントの具体例
ちょうど年末に写真展をやることになっていて、そこに文章を書いているので、それを具体例として説明しよう。といっても、これを書いた時点では、ステートメントがどんな物かなんて知らなかったんだけどね。
写真展のタイトル
「超現実世界」
サブタイトル
「決して交わることのない、もうひとつの世界」
写真展を紹介するための本文(ステートメント)
「写真を撮る時にいつも感じていた。自分が見ている世界は、何かの表面でしかないんじゃないかといった、漠然とした不安。そして、ある時、気がついた。普段見ている世界とは決して交わらない、もうひとつの世界があることに。
私が見つけた被写体は、「立入禁止」と書かれた扉の向こう側にあった。インフラや科学、工業、エネルギーなど、暮らしを支え未来を作るための重要な仕事や産業だ。そして重要であるにも関わらず、求人をしても人が集まらない、関係者からの理解を得られないなどの問題を抱えていた。面白い被写体があり、解決すべき問題がある。このことに気がついた時から、私の写真家としての歩みがスタートした。それから約20年。社会との関わり方を模索しつつ、常に前例のない撮影をしたいと思って活動をしてきた。写真家としての存在意義が、その2点に集約されていると考えたからだ。いまだに達成できているとは言い難いが、これまでの試行錯誤を、ひとまず写真展という形でまとめてみることにした。なお、この写真展では、ネットで画像検索しても出て来ないような被写体が並ぶため、展示物とは別に解説文を用意した。写真だけをご覧いただくも良し。解説文と一緒にご覧いただくも良し。お好きな方法で、立入禁止の現場の数々を、お楽しみいただきたい。」
タイトルを含めた文章をまとめると、上のようなチラシになる。写真のことだけを考えていても成立しないってのが分かると思う。
なお、先に紹介した文章(ステートメント)は、伝えたいことの前半だ。後半は、「おわりに」として写真展の会場で掲示する予定だ。「おわりに」は、写真を一通り見た後に読んでいただくことになるので、それを踏まえた文章になっている。興味のある方は、ぜひ、会場に足を運んでご覧いただきたい。
この写真展に関する文章を書く時に注意したのは、「引っ掛かり」だ。文章自体は、わかりやすい必要があるけど、一般的に言われていることじゃダメだ。血の通ったものにならない。全体を通して、写真展の内容が気になって仕方がないと感じてもらえる文章にしたいと考えた。この点は、取材先に協力を要請するために書く企画書とは、全く異なる。誰に読んでもらうのか。相手にどういった行動をとってほしいのか。それらを考えれば、自ずと書くべきことが見えてくる。
また、文章を書く時に語彙力を気にする人がいるかもしれないけど、難しい言葉を使う必要はない。ただ、伝え方は難しい。だらだら前置きが長かったり、同じような言葉が繰り返されるようなものは、よろしくない。でも、これって実は、写真集を作るときの構成と同じだ。つかみとテンポ。先が気になる構成。文章の長さは、媒体に合わせる。指定されていれば、その範囲内で。指定がなければ、伝えたい内容を精査して、出来るだけ短くするのがいい。意味のない形容詞や例えなんかいらない。無駄なものは、どんどん省く。これも写真と一緒だ。
おわりに
結局、いい写真を撮るためには、いい文章が必要ってことだ。誰に何を伝え、どういう行動をとってほしいのか。文章でも写真でも、他の創作物でも同じこと。