写真家になった理由

写真家になるには、どうすればいいの?

「どうやったら写真家になれるんだろう?」 

 携帯電話やスマートフォンの普及に伴い写真を撮る人が爆発的に増えている今、このようなことを考える人が増えているのではないでしょうか?

 私が写真家になった理由。それは、ただひとつ。写真家という立場でなければ撮れない写真を撮りたかったから。「写真家になる=写真で生計を立てる」という考えとは、ちょっと違うのですが、考え方のひとつとして参考にしていただければ、ありがたく思います。

 私は高校生の時から写真を撮るようになったのですが、大学卒業後は、写真とは全く関係のない会社に就職し、アマチュアとしていろいろなところを撮影していました。しかし、いくら撮影しても自分自身が納得できるような写真は撮れませんでした。世の中の表面だけしか見ていないような、上っ面な感じ。そんな感覚が常につきまとっていたのです。もっと深く追求するために写真を仕事にしようと思っても、学校で写真を勉強した訳でもありませんし、当時(1990年ごろ)は、デジタルカメラも無ければ、インターネットもありませんから、自分で仕事を覚えるのは難しい状況でした。そこで、撮影を仕事としている会社に転職しました。撮影を仕事にしているような会社であれば、技術も覚えられるし、自分を納得させられるような被写体やテーマを見つけられるかもしれないと思ったのです。転職して、しばらくすると自分の撮った写真が新聞や電車内の広告として使われるようになり、それはそれで楽しく、技術もある程度身につき、アマチュアでは撮れない場所で撮影する機会もありましたが、まだ何か足りません。

自分の得意なことで誰かを喜ばせたい。世の中の役に立ちたい。

 高校生の時に思った、この考えを実現できていなかったからです。会社員として撮影する写真では、クライアントやデザイナーさんが喜んでくれることはありましたが、それが世の中の役に立っているという実感は得られなかったのです。技術は覚えた。アマチュアでは行けないところにも行ける。でも、それをどうやったら世の中に役立てるのか、さっぱりわかりません。そこで、さらに可能性を求めてフリーになり、子どもの頃から興味のあった工事現場を撮影させてもらったことから、面白い被写体と現場の問題点を同時に見つけ、その時点で、ようやく「技術」、「面白い被写体」、「目的」の三つが揃い、自分のやるべきことを見つけたのです。技術を覚えてからだと10年くらい、カメラを触るようになってからですと20年くらいかかっています。アナログの時代は、とにかく時間がかかりました。今だったら、こんなに時間はかからないと思います。

どうなれば「写真家」?

 人によって、どのような立場の人を「写真家」とするのか違うかもしれませんが、私の中では、自ら企画して写真を撮影している人が「写真家」で、依頼を受けて撮影する人は「カメラマン」もしくは「職業写真家」なんじゃないかなと思っています。もし、これを読んでいる人が「写真家になる=写真で生計を立てる」と考えているのなら、依頼仕事を中心にする「職業写真家」になることをお勧めします。そっちの方が確実に儲かるからです。ただし、依頼仕事だけでは、ある程度の年齢になって過去を振り返った時に「自分の写真」は残っていません。依頼で撮影する写真というのは、ディレクターさんやデザイナーさんが、企画立案や許認可などの段取りを全て行ってくれていますから、自分一人で撮影した写真ではありませんし、写真を自由に使える訳ではありません。私も依頼を受けて撮影することがありますから、自分の立場を厳密に区分している訳ではありません。「どうなれば写真家?」と聞かれれば、上記のような答えになるという程度です。

写真家という立場でなければ撮れない写真を撮りたかったから。

 冒頭にも書きましたが、この考えのもとに写真家になりましたので、アマチュアでも撮れるような被写体は、極力撮らないようにしています。日常的に見ることのできる被写体にあまり興味がないというのもありますが、誰でも写真が撮れる時代に「何気ない日常の風景」を撮るだけで、他の人と差別化できる自信がないからです。私は、それほどクリエイティブではないのです。クリエイティブが不足している部分を、社会や時代と関わることで補っているのです。

以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした。