写真家になるには?

はじめに

 ポータルサイトで「写真家になるには?」と検索すると何億件もヒットしますから、このテーマは、多くの人が気になっているテーマなんだと思います。そこで、現役の写真家として、自分の過去を振り返りつつ、今、考えていることを書いてみたいと思います。なお、カメラマン、フォトグラファー、写真家など、写真を生業にしている人でもその肩書きは色々ですし、仕事の内容も、街の写真館での撮影から美術館に収蔵される写真を撮るところまで多種多様です。この記事では、写真を生業としつつ、自分の好きな写真を撮り、自分の名前で写真を発表できる立場を、写真家と捉えて進めてゆきます。

写真家の仕事と収入について

 この項目は、もう少し後で書くべき項目だと思うのですが、写真を仕事にしようかどうか悩んでいる人が、最も気にしていることだと思いますので、先に書いておきます。

 私の場合は、自主撮影、依頼撮影、写真貸出、講演、この4つが主な仕事です。これを収入で分けると、全体を10とした場合、
自主撮影(写真集の印税など)=1
依頼撮影(企業の広告や広報に関わる撮影)=4
写真貸出(広告や雑誌などへの貸出)=4
講演など=1
くらいの比率になります。もちろん年によってばらつきがあります。今年は、コロナのせいで依頼撮影が少なかったのですが、写真貸出の案件が例年よりもたくさんあり、減収は仕方ないとしても、なんとかなりそうです。この件で強く思ったのは、仕事は、出来る限り分散しておく必要があるということです。クライアントの数や種類、そして仕事の内容自体も、です。これは、自戒を込めて書いておきます。
 それから、具体的な収入額を書くのは、とても恥ずかしいのですが、具体的な数字を書かないと「なんだよ!そこが聞きたいんだよ!」って声が聞こえてきそうですので、書ける範囲で書いておきます。フリーランスになったばかりの頃(20年前)は、売り上げが200万円〜300万円だったと記憶しています。そこから20年で、売り上げが1000万円を超えたのは一回しかありません(涙)この数字が、他の人と比べてどうかなのか、全く不明です。あくまで、私の場合は、ということです。
 ここで、税金についても書いておきます。1回だけ1000万円を超えたというのは、実は、大変なミスなのです。と言うのも売り上げが1000万円を越えると翌年に消費税を払わなければいけなくなりますし、「予定納税」といって、まだ稼いでいない分もあらかじめ払っておけなんて言われて、翌年の収入が少なかった場合、金銭的に大変な思いをするからです。会社員をしているとあまり気にしていないかもしれませんが、税金や健康保険料は、前年の収入を元に計算されるんです。まあ、毎年1000万円以上稼いでいれば、全く問題ないんですけどね。ちなみに売り上げが1000万円を超えた年は、休日が10日くらいしかなく、常に時間に追われていて体調を崩しかけたので、その点でもちょっと勘弁してほしい感じでした。
 また、収入を増やそうと思ったら企業の広告案件などを請け負うのが、一番いいと思います。ただ、企業案件では撮影した写真を撮影者が自由に使えないことが多いので、その状態が写真家として目指している方向かどうかという問題が発生します。また、依頼される撮影が、撮りたいものと違うこともあると思います。私の場合、依頼される撮影と自主的な撮影とは、ほぼほぼ同じなのですが、自由に使えないことはありますので、依頼撮影と自主撮影の配分には、注意が必要です。そもそも収入を優先にするのであれば、「写真家になる」なんて選択肢自体が、間違っているのかもしれませんけど(笑)

写真家を目指す動機について

好きなことを仕事に

 写真を仕事にしようかどうしようか悩んでいる人は、おそらく好きなことを仕事にしたいと思ってるんじゃないでしょうか。もしくは、何を仕事に選べばいいのか悩んでいて、その中のひとつとして、写真を考えているのかもしれません。人によっては、今の仕事から逃避する先のひとつとして検討しているのかもしれません。
 自分の場合、学生の時から写真を撮っていましたが、卒業後、写真を仕事にすることはなく、普通の会社に就職し、休日の趣味として写真を撮影していました。当時は、インターネットなんてありませんでしたから、田舎に住んでいると情報がほとんど無く、写真を仕事にするというのは、東京の学校を出て東京に住んでいる別世界の人々の話だと思っていたため、写真を仕事にすることを選択肢に入れていなかったのです。しかし、休日の撮影をしばらく続けていた時に、ふと、疑問が頭に浮かびます。「人生のほとんどの時間を、お金を稼ぐために使って、好きな写真を撮る時間は、ほんの少し。こんな人生でいいのか?」また同時に、趣味で撮影している写真の限界も感じるようになってきました。「何気ない日常の風景」などのテーマでは満足出来なくなっていたのです。趣味として撮れる範囲のテーマで満足出来ていたら、写真を仕事にすることも、今の自分もなかったと思います。
 今は、SNSなどの情報発信手段がたくさんありますので、もし、あなたが趣味の範囲で撮れるテーマを追いかけているのであれば、写真撮影が好きだからと言って、あえて仕事にしなくてもいいのかもしれません。人にもよると思いますが、普通は、フリーになってすぐにまともな収入があることはありませんし、必ずしも自分の好きなように撮影できるわけではないからです。写真を撮るのが好きというのは、写真家にとって必須とも言える動機ですが、写真家を目指す段階で、いわゆる普通の人生を捨てる覚悟が必要だと思いますので、単に好きだからとか趣味を深掘りしたいという程度では、写真家を目指す動機として弱いように感じます。
 遠くまで飛びたい、高いところを飛びたいと思ったら、荷物を減らさなければいけません。あなたは、何を捨てますか?捨てる覚悟はありますか?

写真を仕事にして、何を目指しますか?

 私自身は、今、写真家を名乗っていますが、写真を仕事にしようと思った時点では、商業写真を撮る人になろうと思っていました。当時は、写真家なんて得体の知れない感じで、自分の将来像としては想像出来なかったからです。しかし、フリーランスになってしばらく経ってから、自分の使命だと思えるようなテーマを見つけ、それが、高校生の時から目指していた「自分の得意なことで世の中の役に立つこと」にも合致していたことから、作家としての立場、つまり写真家になることを意識し始めました。その頃、たまたま海外の雑誌で取り上げられたり、写真集を発行できたことも後押しとなりました。つまり、写真家という肩書きは、後からついて来たのです。
 個人的には、肩書きや憧れの誰かを思い浮かべて、そこを目指すよりも、「自分のやりたいこと」や「自分のやるべきこと」を見つけることの方が大切だと思っています。

写真家になるための道筋について

 写真家になる道筋は、人それぞれだと思いますが、この記事を読んでくださっている方々が気になっていると思われることについて書いてみます。

写真の学校に行かなきゃダメ?

 自分は、写真の大学や専門学校などで専門教育を受けているわけではないので、必ずそのような学校に行かなければいけないってことではないと思っています。周りの写真家さんも写真の学校に行っていない人はたくさんいます。ただ、お金と時間に余裕があれば、東京で人脈を作るという意味で非常に有効だと思っています。
 私の場合は、教育大学の出身ですので、広告写真撮影を専門としている会社に転職し、そこで撮影の技術を覚えました。当時は、白黒フィルムの現像から始まって、4×5から35ミリまでのカメラの扱い、それに加えストロボなどの照明機材の扱いを覚えなければ、「撮影できます。」と言えない状況でしたので、そのようなルートを通りました。今は、デジカメで簡単に撮れますので、独学でも問題ないと思いますし、実際に独学の写真家さんもいらっしゃいます。

コンテストに入賞しなきゃダメ?

 私は、コンテストには無縁です。コンテストは、年配の人が選ぶので、今まであった写真の延長線上にある写真が選ばれることが多く、全く新しい写真は、まず選ばれません。私が撮影しているような写真は、応募するジャンルさえありません(涙)
 もし、あなたの撮影している写真が、今までの写真をちょっとアレンジしたくらいの新しさを持っていれば、コンテストに入賞するでしょう。加えて見た目が麗しければ、それをきっかけに仕事を依頼される可能性も出てくると思います。

誰の弟子にならなきゃダメ?

 私の場合は、会社員としてアシスタントをしたことはありますが、個人の写真家さんに師事する形でのアシスタントは経験したことがありません。周りの写真家さんを見ても、経験者もいれば、そうでない人もいますので、あまり関係ないようです。ただ、学校と同じく、人脈を作るという観点では、とても有効だと思います。

SNSでの評価が高ければ、写真家になれるのか?

 時代とのシンクロは、とても大切です。ただ、私の人生でも白黒のフィルムを現像していたのが、デジタルになり、技術のある人しか撮影出来なかったものが今では誰でも撮影出来るものになるなど、状況は大きく変わりました。今後も当然、変わってゆくでしょう。そのことを考えると、ずっと写真家でやっていこうと考えるのであれば、単に今の時代に合っているとかSNSでの評価が高いというだけでは、あまりにも刹那的で心もとない感じです。写真に人生をかけるのであれば、今後、時代が流れていっても、その流れに合わせてゆけるだけの柔軟性と、時代に流されない自分の中の核が重要になってきます。文字で書くと、ちょっと相反しているようですが、柔軟性が必要なのは主に技術的なことで、核となるのは考え方です。新しい技術や機材は、どんどん利用するべきですが、考え方がコロコロ変わってしまっては、作家としての一貫性を問われてしまいます。

写真家に求められる能力について

写真家に必要なのは、マルチな能力

 写真家っていうと撮影ばかりやっているようなイメージかもしれませんが、私の場合、撮影している時間は、全部の仕事のうちの1割くらいだと思います。写真家は、個人事業主なので、経理や営業も自分でやらなければいけないので、やらなければいけないことは沢山あるのです。企画書を書くこともあれば、ウェブサイトを自作することもあります。時には、交渉事で相手に理解してもらうにはどうすればいいのか、ウンウン唸りながら考えなければいけないことだってあります。当然、文章を書く力やコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力なども必要です。
 また、仕事をする上では、自分の仕事は、自分で探す。もしくは、自分の仕事は自分で作るという心構えが必要です。受け身の仕事ばかりでは、写真家とは認められないからです。誰かに依頼を受けたり、指示をしてもらわなければ、やることを見つけられない性格の人は、写真家には不向きなのかもしれません。

写真家にも必要なセルフブランディングの能力

 誰でも写真を撮れる状況であれば、競争相手はどんどん増えてきます。SNSで誰でも写真を発表できる状態が続けば、単にかっこいい写真を撮れるというだけでは、写真家として認められなくなって来るかもしれません。1枚2枚かっこいい写真を撮るだけなら、アマチュアでも出来ますし、プロであっても常に現地にいるアマチュアより良い写真を撮るのは、とても難しいからです。また、昔であれば、修行して技術を身につければ、その技術だけで写真家として成立したかもしれませんが、今は、技術だけで成立する可能性がとても低くなっています。
 まさにボーダレスで、何に対して努力をすればいいのか非常にわかりにくくなっていますが、唯一言えるのは、自分や自分の写真を選んでもらうためには、何かしらの理由を撮影者自身が用意しておく必要があるということです。「差別化」や「ブランディング」と言ったキーワードが、それに該当します。具体的には、他の人を寄せ付けないほどの強烈な個性かもしれませんし、活動コンセプトなのかもしれません。そして、これらを用意できない限り、写真家として認められなくなる時代がすぐそこまで来ています。いや、実感できていないだけで、もう来ているのかもしれません。

終わりに

 さて、ここまで色々書いてきましたが、私自身も、今後どうすれば良いのか、どうするべきなのか、不安なことばかりです。写真家だと名乗っていても、悩みは尽きないのです。ただ、何もしなければ何も始まらないと思って、この文章を書いてみました。一写真家の個人的な視点で書いた文章ではありますが、写真の道に進むべきか悩んでいる人にとって、多少なりとも参考にしていただける部分があれば幸いです。

以上、写真家西澤丞の悪戦苦闘でした!