写真家(クリエイター)のブランディングについて

あなたでなければいけない理由

 写真家やクリエイターなどの個人事業主がブランディングの話に触れる機会は、それほど多くないでしょうから、私が経験したことを元に書いてみようと思います。

 私がフリーランスになった2000年頃には、ブランディングなんて言葉を聞いた覚えがないんですが、最近は聞く機会が増えているように感じます。ブランディングなんていうと敷居が高くなってしまう感じですが、「差別化」や「選んでもらうための理由」と言い換えればわかりやすいかもしれません。私自身もブランディングなんて聞くとちょっと身構えちゃったりしますから。

 私が自分のブランディングについて考え始めたのは、必要に迫られたことがあったからです。2005年くらいに今のテーマである「日本の現場」を撮り始めた時に、取材先にこんなことを言われたのです。「うちは、今まで撮影の許可なんて出したことないんだよ。君に許可を出したら、他の人を断りにくくなるから、君だけに許可を出さなければいけない理由を教えてくれ。」

「あなたでなければいけない理由」

 いや〜、これには本当に悩みました。その時は、手元にあった実績をかき集めてなんとかOKしてもらいましたが、選んでいただくための理由を自ら考え、きちんと相手に納得していただくにはどうすればよいのか、めちゃくちゃ悩みました。悩んだ結果、以下のようなことを考えたのですが、何年も経ってから、これがいわゆるセルフブランディングってヤツじゃないかと気がついた訳です。

ブランド確立への道

 以下に私が実践した方法を書き出してみます。

活動コンセプトの設定

 コンセプトとは、基本的な方針のことですが、これを設定し、明文化しておくことで、自分が何をやりたいのか説明しやすくなりますし、言っていることと実際に撮影した写真との整合性が高くなります。コンセプトが変わるとブレてしまうことになりますから、2005年からずっと同じコンセプトです。コンセプトの良いところは、被写体を自由に変えられることです。コンセプトの範囲内であれば、むしろ沢山の被写体を撮った方が、写真集や展示のことを考えた時には有利かもしれません。同じ絵が何枚も続いたら、飽きちゃいますから。一方で、コンセプトを設定せずに、特定の被写体をずっと追いかけていると、被写体を変えた時に、連続性が途切れてしまいますから、ブランドの構築が振り出しに戻ってしまいます。これは、非常に勿体無い。連続性という視点で考えると、コンセプトを設定する際には、あまり細かな目標を設定するのではなく、大きくざっくりしたものの方がいいと思います。私の場合は、「写真を通じて日本の現場を応援する。」となっています。コンセプトを決めた時点ではロケットを撮りたくて、それを実現させるために必要なこととして考えていたのですが、ロケットの撮影は、コンセプトを決めた8年後に達成してしまいました。あの時、科学とかロケットとか、細かな分野だけを設定していたら、その後の展開が難しくなっていたかもしれません。「こんな高い目標設定、無理かも。」とか「こんな大きなこと言っちゃって大丈夫なの?」と思えるようなことでも、ちょっとがんばれば、意外と実現してしまいますから、無理だと思えるくらい大きなものがちょうどいいのです。撮影を始めたばかりの人は、自分なりの被写体を見つけることさえ難しいと思いますが、常に考えながら撮影をしていけば、きっと、「これだ!」というコンセプトが見えてくると思います。

特定分野での第一人者を目指す

 依頼仕事でも取材撮影でも相手方の内部では、「どうして、こいつなの?」という話は、必ず出ていると思います。多くの人がハンコを押さなければいけないからです。そんな時「この被写体だったら、あいつだよね。」と誰もが思っていただける状態になっていれば、窓口の方は、とっても楽ですよね。これは言い換えると選んでいただくための理由を自分自身で用意しなければいけないということです。「どうして、こいつなのか?」その答えを先方に探していただくのではなく、写真家の側で用意し、提案することが肝心だと考えます。まあ、依頼仕事の場合、第一人者であるかどうかよりも人脈の方が重要だと思いますが、広告代理店さんがクライアントにプレゼンしてくださる時とか、ネットで探して問い合わせをしてくださるようなこともありますので、「何をしている人なの?」という問いに対する答えを用意しておいて損はないと思います。

第三者に評価された実績を積む

 私が「選んでもらうための理由」を考え始めた頃は、SNSなんてありませんでしたから、実績としては写真集の出版や雑誌の掲載を増やすことを考えていました。つまり、第三者が評価した上で世の中に出た実績ということです。いまでしたら、SNSのフォロワー数というのもある程度の指標になるのかもしれません。

 それから、実績を提示することに関しては、自分のウェブサイトに掲示するのは当然として、必要になればいつでも渡せるように、案件ごとにA4サイズで出力できるように資料としてまとめてあります。状況によって、お客様や取材先に表紙をつけてお渡ししています。資料づくりはめんどくさいのですが、普段からやっていないとスッと出せませんから、時間のある時に作るようにしています。

最後に

 自分のブランディングをすることは、自分自身のためにもなるのですが、お客さまがブランド構築の際に何を必要としているのかを理解する上でも非常に役に立ちます。本を読むだけではなく、自分の頭で考え、実際に手を動かすことが重要だと思います。
 今は、ただ写真が撮れるだけでは、仕事として成立するのが難しくなりつつありますが、それは写真家だけではなく、私がお世話になっているBtoB企業の皆さまをはじめとした様々な分野でも同じなんじゃないかと思っています。自分の仕事をどうやって伝えればよいのか、まだまだ考えて行かなければいけないと思っています。

以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!