BtoB企業に今こそ必要な写真の力

「写真を通じて日本の現場を応援する」を活動コンセプトにしている私が行く現場は、BtoB企業、つまり個人を顧客としない会社がほとんどです。このコンセプトで撮影を始めた2005年頃は、取材先に取材のお願いをすると、あからさまに迷惑そうな顔をされることも多かったのですが、最近ちょっと流れが変わってきました。BtoB企業の広報担当者が、情報を発信することの価値に気づいてくださっているようなのです。そこで、今回は、BtoB企業の情報発信にとって、なぜ写真が必要なのか、私なりに考えていることを書いてみたいと思います。

広報の目的

 写真の必要性を書く前に、まずBtoB企業において広報が必要な理由を書き出してみましょう。

・ブランドイメージ向上
・認知度向上
・リクルート
・事業への理解促進
・株主へのアピール
・働いている人たちのモチベーションアップ

 概ね、このような理由が挙げられると思いますが、いずれも企業活動に不可欠です。そして、これらに対して写真はとても有効なのです。

写真の力とは

良い写真には、人を振り向かせる力がある

 日本では、何かを伝えようとする時には、「まず説明」となっています。会社を紹介するパンフレットであれば、とにかく自分の仕事を知ってもらおうと色々な事業の説明文を詰め込んだパンフレットを作ります。でも、それって、興味のない人が読んでくれるものでしょうか?
 これ、実は、順番が間違っているんです。最初にやらなければいけないことは、まず興味を持ってもらうことなのです。説明をするのは、興味を持ってもらった後です。興味を持っている人であれば、説明もきちんと聞いてくれますが、最初に説明を持ってきてしまうと、うっとうしいヤツだと思われ、かえってマイナスイメージになってしまいます。
 写真には、人を振り向かせる力がありますから、インパクトのある写真を提示し、振り向いてくれた人に対して説明をする。写真は、興味を持ってもらうためのきっかけとして最適なのです。

良い写真は、言葉の壁を越える

 良い写真とは、子どもでもわかるような「わかりやすさ」を持っています。言い換えると、どこの国の人にも伝わるということです。海外の企業と競争をしなければいけない状況では、言葉の壁を超えて伝わるイメージが非常に重要です。また、海外の人は、日本の人よりも写真の質に敏感ですから、必ず高品質な写真を用意しなければいけません。現場の人が撮影した写真をウェブサイトやパンフレットに使うなんて、一流料理人が作った料理を、汚い紙皿にのせて提供しているようなものです。価値が伝わるどころか、マイナスに作用してしまうことさえあるのです。

良い写真を見分けるには、1秒もあれば十分

 写真の良し悪しを見分けるには、時間がかかりません。つまり興味を持ってもらうまでの時間が短いということです。ムービーも文章も良し悪しを見分けるのに時間が掛かります。忙しい毎日の中で、良いか悪いかわからないものに時間を割く余裕はありませんから、興味を持ってもらうための入り口としては写真が最適なのです。ムービーや文章は、すでに興味を持ってくれている人に対して有効なのです。

良い写真は、ブランドイメージの確立に貢献する

 「高付加価値が必要」と言われて久しいですが、多くの企業では、高付加価値の意味を高機能や多機能に置き換えていたり、薄利多売の呪縛から逃れられずにいるようです。高付加価値とはブランドです。同じ内容のものでも高い値段で買っていただけることです。ブランドを構成するのは、「企業の方針(スピリット)」、「歴史(ヒストリー)」、そして「視覚的要素(ビジュアル)」です。そして、視覚的要素とは、主に写真とデザインです。写真は、ブランドイメージの確立に関しても重要な役割を果たすのです。

良い写真は、多用途に使える

 良い写真を一度撮影しておけば、ウェブサイトをはじめ、パンフレットやプレゼンテーション、広告、会社の記録など様々な用途に使えます。また、スライドショーのように構成すればムービーとしても使うことが出来ますから、非常に使い勝手の良い媒体です。

現場で感じる「もったいない」

 この文章を書いた主な理由は、BtoB企業での取材撮影中に「もったいない!」と思うことが多いからです。現場に面白いものがたくさんあっても、それが広報にも企業広告にも使われていないのです。原因を考えてみますと、まず、会社全体を把握できている人が少ないことが挙げられます。大きな企業であればあるほど現場が広すぎて、広報担当者であっても会社の隅々まで知っているわけではありません。宝の山があったとしても、その存在を知らなければ、活用しようとはならないわけです。もうひとつ考えられるのは、宝が宝として認識されていないということです。現場の人が気にも留めない場所であっても、写真として切り取れば、面白い場所はたくさんあります。ただ、現場の人にとっては仕事をこなすための道具や施設といった観点でしか見ることができないため、写真にした時の価値に気がついていないことがあります。これらは、実際に撮影した写真をご覧いただくと「うちの現場って、こんなにかっこよかったっけ?」と感想をいただくことが多いことからも実感しています。本当にもったいない。

もっと現場の写真を!

 私は取材のお願いをする前に、その会社のウェブサイトを見て下調べをするのですが、自分が撮影したいと考えている「現場の写真」は、あまり掲載されていません。そこで、複数の同業の会社を調べて「だいたいこんな会社かな?」と想像しながら取材をお願いしています。でも、これって、就職を考えている人も私と同じような不安を抱えているんだと思います。それに、自分の会社を良く見せようと思ってきれいなところだけを紹介しているようなウェブサイトも見ますが、いいところだけを見せられて実際に就職したら全然違ったのでは、情報を受け取った側(就職した側)からすると裏切られた気分になるのではないでしょうか?最初から現場をきちんと紹介していれば、そのような行き違いもなくなります。
 また、現場の写真を発表することは、働いている人たちのモチベーションアップにも有効です。以前、写真集を発売した時に、取材先の人から「あんたの写真集が出て、ようやく家族に自分の仕事を説明できたよ。」と言われたことがあります。お話をうかがうと、それまでは自分の仕事を家族に説明しようと思っても写真が無くて説明出来なかったということでした。機密に関わるような場所は、社員であっても勝手に撮影できませんから、会社で撮影していなければ、写真が全く無いという状態になってしまうのです。自分の仕事を家族にも説明出来ないなんて悲しすぎます。
 それから、とある工事現場では、こんな例もありました。この工事現場は、長期に渡って工事をしていたため、近隣住民から苦情が寄せられることが多かったそうなのですが、私の写真を工事現場のフェンスに掲示したところ「こんな大変な工事をやっているなら、時間が掛かってもしょうがないよね。」と理解を示してくれる人が出てきたそうです。情報が少ないと人は不安になるのですが、きちんとした情報を発信することで納得していただける場合もあるのです。プロジェクトが大きくなればなるほど、関わる人も増えますから事業の内容や意義を理解していただくことが重要になってきます。それが、1枚の写真で解決してしまうこともあるのです。
 このように、現場の写真をきちんと発表することは、とても大切なのです。

最後に

 黙っていても、きちんと仕事をしていれば、伝わる。そんな時代は、もうとっくの昔に終わっています。きちんとした仕事をしているのであれば、きちんと伝えない限り、価値にはならないのです。ましてや、今は、ネットで全てが繋がっていると思われていますので、ネット上に情報がないということは、存在しないと同義です。
 日本の現場には、まだまだ魅力的なものがたくさんあると思っています。私は、その魅力を国内はもとより世界に発信してゆきたいと思っています。

 以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!