デジタル写真の現像について写真家の作業内容や環境を紹介します。
私の場合、デジタルカメラで撮影した写真をお客さまに納品したり第三者に見ていただく為に「現像」という作業を行うのですが、撮影が終わって「現像が大変だ〜。」なんて言うと、「?」という表情をされたり「デジタル写真の現像って何をするんですか?」と聞かれることが時々あります。そこで、今回は、デジタル写真の現像について紹介します。
8ビットの最適なデータを作る
写真を納品するときは、JPG形式で納める場合がほとんどですが、私は、常にRAWデータで撮影し、後から現像してJPG形式にするようにしています。JPGが8ビットであるのに対して、RAWデータは14ビットや16ビットといった豊かな階調を持っていますので、その段階で明るさやコントラストなどを調整し、調整が済んでから8ビットのJPGに変換するのです。16ビットの段階でコントラストなどを調整しても、極端なことをしない限り、8ビットにした時の劣化はありませんが、JPGで撮影したものに対してコントラストなどの調整をしてしまいますと、階調が欠けて画像の劣化が起き、滑らかなグラデーションにならないことがあるのです。ですから、より高画質のデータを作るために、14ビットや16ビットのRAWデータで画像を調整し、8ビットのJPGデータに変換する必要があり、この作業を「現像」と呼んでいるのです。
ちなみに、1ビットは0か1の2階調、2ビットは4諧調、3ビットなら8諧調といった具合に倍々になっていって、8ビットでは256諧調になります。カラーの場合はRGBの三色がありますから256の三乗で、だいたい1670万色ということになります。14ビット、16ビットになるともっと諧調が豊か(滑らか)になるというわけです。
さて、たくさんの諧調で取り込んだデータを、8ビットの諧調に落とし込むわけですが、ただ変換すればいいかというと、そうではありません。デジタルカメラで取り込める光の量には、明るいところから暗いところまで記録できるようにかなりの幅があるのですが、曇りの日などは、明るい部分と暗い部分の差(輝度差)が少ないため、撮ったそのままですと、写真の中に真っ白な部分も真っ黒な部分も無い、いわゆる眠い写真の状態になっています。これをカチッとした写真にするためには、ハイライトとシャドーをどこにするべきなのか考えながら調整しなければいけないのです。
上の図は、キヤノンのDPPというソフトで写真を開いた状態です。フォトショップでも同じようなグラフが出てきます。これは、ヒストグラムと呼ばれるグラフで、ギザギザの山がデータの量を表しています。グラフの左側がシャドー側、右側がハイライト側を示しています。ふたつのグラフを掲載していますが、左が撮影したままの状態を示したヒストグラムです。これを見るとハイライト、シャドーともに、赤で示した部分はデータがない状態です。これは、写真の中で一番黒い部分が暗い灰色になっていて、白になるべき所も明るい灰色になっていることを示しています。そこで、黒は黒に、白は白として表現されるように調整をする必要があるのです。右のヒストグラムが調整中の様子を示したものです。ヒストグラムの山の裾野部分が左右に目一杯になるように調整しつつ、トーンカーブを使ってコントラストの調整もしています。左下から右上に斜めに走っている線が、そのトーンカーブと言われる線です。左の元の画像では直線だったものが、右の図では曲線になっています。この曲線の具合でコントラストを調整できるのです。線が水平に近づくとそこの部分のコントラストが下がります。垂直に近づくとコントラストが高くなるのです。左側の図では、中間トーンの部分が垂直に近くなっているので、その部分のコントラストが上がっている状態です。このトーンカーブの調整によって、写真全体の雰囲気が決まってしまいますから、ハイライトやシャドーの決定からカーブの具合を決めるのに一番時間がかかります。
ヒストグラムは、カメラでも確認出来ますが、見方がわからないという方もいらっしゃると思います。実際に撮影すると、だいたい上のような感じなると思います。ギザギザの山が左右に張り付いてしまっているようでしたら、その写真には、潰れている部分(真っ黒な部分)や飛んでしまっている部分(真っ白な部分)が沢山あることになります。何かしらの意図がない限りは、枠の中に山が収まっているのが良い状態です。
また、先ほどのように現像の段階でコントラストを上げると彩度も一緒に上がってしまいますから、カメラに彩度に関する設定があるのであれば、「ニュートラル」や「忠実」など、彩度の低いものを設定してあります。彩度を上げるとぱっと見が派手になりますので、ついつい上げたくなると思いますが、やりすぎると階調やディテールがなくなってしまって軽い写真になってしまいますから、許容範囲の見極めが肝心です。
ごみ取り
最近のカメラは、ごみ取り機能が改良されてきて、センサーにゴミがつくことは少なくなりましたが、それでも時々、写真にゴミが写ってしまうことがあります。小さなプリントで見ている時には気がつかなくても、拡大するとよく見えます。私の写真は、何メートルもの大きさに引き伸ばされて展示されることは珍しくありませんから、現像が終わってからのゴミ取りは必須です。
ゴミが目立つのは、空や車の表面など、トーンが滑らかな部分です。上のサンプルも見逃してしまいそうですが、画面をスクロールするとぼんやりとした黒っぽいものが移動するのがわかります。このようなものを、画面を100%表示にして隅から隅まで確認し、見つけ次第、修正をしなければいけないのです。正直、めんどくさいです。時間もかかりますが、写真を貸し出すたびにチェックしなければいけない状態では、余計にめんどくさいので、現像の時に全ての写真を、100%に拡大してチェックし、見つけ次第、修正しています。
デジタル写真を現像するための環境について
デジタル写真を現像する際には、モニターの置かれている環境なども大切です。周囲の明るさによって、モニターで見る画像の明るさなどが違って見えるからです。外の光が入ってくるような環境では、夜に現像したものを翌日の朝確認すると全く違う写真に見えてしまいます。私は、下のような環境で作業をしています。
机の周辺は、色評価蛍光灯で照らしますが、モニターには直接光が当たらないようにしています。また、机の表面は灰色に塗ってあります。これは、目に入ってくる色の情報を減らしたり、机から反射する光に色が付かないようにするためです。それから、外の光が入ってきますと、明るさが一定に保てませんから、日中は遮光カーテンを使って部屋を暗くし、この蛍光灯の光だけになるようにして作業をします。日中でもカーテンを閉めていると不健康な感じですが、いつも同じ環境で作業をしないと写真の色や明るさが安定しませんから、やむを得ません。全ては、いい写真を作るためです。また、私自身も黒っぽい服を着て作業しています。モニター自体がつや消しになっていても、白いシャツなどを着ていると映り込んでしまうからです。機材は、モニターがEIZO製のCS2420(EX3にてキャリブレート)、パソコンはMac miniです。この環境であれば、プリンターからの出力も、だいたい同じ色、同じ明るさで出て来ますし、印刷会社さんからも「OK!」と言われるデータを作れるようになっています。
このようにデジタル写真の現像は、真剣にやろうとすると機材もそれなりのものを使わなければいけませんし、手間もかかります。私の場合は、1日撮影すると現像にも1日かかってしまいますので、大変ですが、これをやらないことには高品質なデータになりませんので、手を抜けない工程となっています。
以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!