写真家が仕事(撮影、写真貸出、出版)をする時の契約や条件について
はじめに
友人の話やネット上に書き込まれている記事などを見ると、ギャラなどの条件を確認せずに撮影に取り掛かっている人もいるようで、ちょっと危機感を持ちました。また、フリーになったばかりの方ですと、どうやって進めたらいいのかわからない人もいると思います。そこで、私が仕事を受ける時の段取りや契約する時の条件などについて書いてみようと思います。内容は、あくまで私の経験上の話ですので、法律などについては、各自で確認してください。
撮影の依頼を受けた時の進め方
私の場合は、口約束で仕事を始めることはなく、メールで条件を確認してから始めます。打ち合わせをする場合でも、その場で条件が確定することはありませんので、後からメールで詳細を詰めてゆきます。法律の上では、口頭でも契約は成立するのですが、言った言わないという事態になるのを避けるために、できる限りメールでやりとりして、記録が残るようにしています。また、時には先方が契約書を作ってくれることもありますが、その場合は、契約書の隅々まできちんと確認し、気になった点は、質問します。質問をすると先方から「私は、〇〇というつもりで書いています。」という回答をいただくこともありますが、それでは、担当者の異動によって解釈が変わる可能性がありますので危険です。契約書で一番重要なのは、誰が読んでも同じ内容として読み取れることです。担当者が変わっても、第三者が見ても同じ内容になっていなければいけないのです。また、相手が外国の企業だったり、一部上場企業だったりすると、質問する時点でビビっちゃいますが、きちんと説明すればわかってもらえますので、双方が納得できる形に直してもらいましょう。
撮影前に確認すべき条件など
撮影に要する日数
先方が必要としているカット数や内容を把握し、撮影に必要な日数を想定します。先方から日数を提示されることもありますが、その場合は、内容を確認して可能かどうかを伝えます。
ギャランティー
1日だけの撮影と数日間に渡る撮影、定期的な撮影かどうかなど、条件によって、撮影単価が違ってきますので、条件を確認します。撮影日数だけではなく、移動日などが入ってくれば、見積もりに加えなければいけませんし、交通費が別に支給されるのか、それとも撮影費の中に含まれてしまうのかなども確認します。なお、撮影費の算出方法は、過去記事「写真家の撮影費。その根拠や算出方法について。」でも触れていますので、参考になさってください。
写真の権利
著作権法では、依頼で撮影した写真であっても、撮影した写真の権利は撮影者にあります。ただ、依頼を受ける時に「写真を権利ごと買いたい。」と相談されることがあります。この場合、よくよくお話を伺うと、相手が求めているのは、著作権の譲渡ではなく、写真を自由に使いたいということだったりしますので、相手の意図を確認しておく必要があります。相手が自由に使いたいと思っているだけの時は、著作権は撮影者のままで、使用権の一部がクライアントのものになるように、契約書を書いてもらいます。その際に、販売するものに写真を使う場合は、別料金としてもらい、データを配布するような使い方はNGとしてもらっています。
依頼仕事の場合、著作権が撮影者にあっても、撮影者が自由に写真を使えるとは限りませんが、写真の価値が後々跳ね上がるってこともありますから、ここぞ、という時のカードとして持っておく必要があると思っています。今のところ、理解のあるクライアント恵まれていて、「ここぞ」なんてことはありませんけど。
撮影以外の案件について
本の出版
本を出版する場合ですと、出版業界の慣例なのでしょうか、本が完成してから契約書を交わすことが普通のようです。その場合でも印税の比率だけは、企画を検討してもらう段階で決めておきます。印税なんかどうでもいいという場合もあるかもしれませんが、下手をすると著者の買取が出版の条件だったりもすることもあるようですので、契約書を読まずにハンコを押すなんてことはやめた方がいいと思います。
写真の貸し出し
写真の貸し出しの場合は、媒体や大きさなどによって条件が変わってきますので、まずは、そこを先方に確認します。私は、1点1媒体1回の使用について料金が発生する設定とし、使用点数、媒体、回数を積算することにしています。中には、一回お金を払ったら、好きなように使えると思っている人もいますので、最初にきちんと説明をしておく必要があります。私は、一回失敗しました。写真の使用料は、1媒体1回のみというのが常識だと思っていて説明を省いてしまったら、相手が不慣れな人だったため、全ての仕事が終わった後で認識のズレが発覚したのです。もう、プロジェクトを止めることの出来ない段階まで来ていましたので、良い勉強をさせていただいたと思って、そのまま進めていただきました。取り掛かる前に見積もりまでやり取りしていれば、こんな行き違いを防げたんですね。思い込みは危険です。
なお、「教育目的だから無償提供してほしい。」という話をしてくる人もいますが、「無償で」という案件は、全てお断りしています。たとえ教育目的であっても教科書は無償で製作されているわけではありませんし、教科書を作っている会社の社員さんもボランティアではないからです。また、「無償で」ということは、「あなたの仕事の成果は〇円ですよ。」と言っているのと同じですので、写真の価値を知っていただく意味でも、写真家の地位向上を目指す意味でも、全てお断りしています。実は、これも一回失敗しています。以前、一度だけ、無償で貸し出したことがあるのですが、その時は、とんでもない使い方をされてしまいました。無償で貸してほしいと言ってくる人は写真に価値を見出していない人ですから、扱いもいい加減なのです。
最後に
フリーになったばかりの頃は、条件の悪い仕事でもやらざるを得ない場合がありますし、支払いの悪い相手とも付き合わなければいけないことがあります。でも、「お金・時間・約束」にルーズな人や団体とは、なるべく早く距離をおくようにするのが得策です。「お金・時間・約束」にルーズな人は、こちらを見下している人か管理能力のない人ですので、何れにしてもキャリアアップには、つながりません。
以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!