伝わる写真の撮り方。カメラを構える前の写真家の思考とは。
はじめに
巷には、「いい写真を撮るために」と題したハウツー記事がたくさん出回っていて、カメラの操作方法などを解説しています。でも、実際には、段取り八分という言葉があるように、実際に手を動かす前の段階が大切です。ここでは、ある程度まで写真を撮れるようになったけど、そこから先に進めなくなってしまっている人向けに、もう一歩前進するための心構えについて、書いてみました。
1、誰に、何を、伝えるのか
今回のテーマは、「伝わる写真の撮り方」ですから、これがなければ何もはじまりません。私の場合は、このサイト内のプロフィールに活動コンセプトとして書いてあります。ただ、ちょっと難しい感じですので、分かりやすく書くと、高校生くらいの年齢の人が、写真を見た時に「かっこいい!」とか「この仕事、面白そう!」と思ってくれたらいいなあと思って撮っています。世の中には、知られていない職業がたくさんありますから、これから職業を選ぶ人の選択肢が増えればいいなあと思っているのです。この辺りは、過去の記事「写真家にコンセプトが必要な本当の理由とは」でも触れていますので、ぜひ、ご覧ください。
2、意志の力
撮影において、私が一番大事だと考えるのは、「こうしたい!」という強い意志です。写真を撮るための技術的なことも、ある程度は必要だと思いますが、撮影者の「こうしたい!」がなければ、形にすることは出来ないからです。被写体や取材先に協力してもらったり、写真集や展示会の企画を通すなど、形にするまでの道のりは長く、何かしらの障害が出てくるのが普通です。障害が出て来た時に、それを乗り越えられるかどうかは、この意志の力にかかっているのです。
実際、写真家と呼ばれる人たちに会ってみると、諦めが悪くてしつこい人が多いです。思い描いた「絵」を撮るために、時間や労力、人生までもつぎ込んで撮影しています。私がすごいと思っている動物写真家さんは、撮れるかどうかわからない被写体を求めて山に行き、一ヶ月かけて1枚も撮れないこともあるそうです。こんなの、私には、真似できません。
私の場合で言うと、撮影の許可を得るのに7年かかったことがありますし、写真集を構想してから実際に本になるまで、10年かかったこともあります。いずれの場合も途中で障害が出て来て進めることができなくなり、何度も中断した結果、時間がかかってしまいました。障害を乗り越えるには、色々な方策を考え実行することも大事なのですが、相手があってのことですし、世の中の状況と合致するかどうかということもありますから、場合によっては、時期が来るのを待つことも求められます。ただ、途中で諦めたら、そこで終わりです。待つことは辛いので、「こういう写真が撮りたいんだ!」という強い意思がなければ、耐えられません。強く思い続けることこそが、実現するための鍵なのです。
3、偶然に出会う確率を上げる
写真は、全てを自分でコントロールできる訳ではなく、天気やモデルさん、現場の状況など、様々な要素によって仕上がりが左右される、偶然に頼る部分が多い媒体です。しかし、いい写真を撮っている人は、偶然を仕方のないものとして諦めるのではなく、偶然に出会う確率を自ら高めているのです。風景写真を撮ろうと思ったら家に閉じこもっていても始まりません。色々なところに出かけることで、知識が増え、いい風景に出会う確率が上がります。「ここに行ったら、こんな写真が撮れるんじゃないか?」とか「このタイミングで行ったら、いい光に出会えるんじゃないか?」などなど、思考や行動によって確率を上げるのです。ポイントとなるのは、常に想像力を働かせて先回りをすることです。私の知っている風景写真家さんの場合は、「虹を撮るのは、難しくないですよ。虹の出そうなところは分かるので、先回りをすればいいんです。」といった具合です。彼にとって虹とは偶然に出会うものではなく、自分で探して会いに行く相手なのです。
私の場合、工場の撮影であれば工程を把握するところから始め、工事現場であれば、進捗状況をうかがってから、どのタイミングが最適なのかを探ります。事前にある程度の目星をつけてから取材先に申請するのです。また、一度現場を見れば、「あそこに行けば、いい写真が撮れそうだ。」と新たなポイントを見つけることもあるのですが、そこが特別な許可のいる場所であることが多いので、それについては新たに交渉をしなければいけません。このようなところまで進めておいても、撮影現場に行ってみたら工場のラインが止まっていたなんてこともありますから、そこは頭を切り替えて、その時に絵になるところを見つけて撮影することになります。予想は大切なのですが、予想に縛られ過ぎてしまうと現場で臨機応変に進められなくなってしまいますので、このあたりは、バランスが大事です。また、例え現場が予想通りになっていたとしても、それだけを追いかけてしまいますと写真の勢いがなくなってしまいますから、現場の状況に安心することなく、常にアンテナを張り巡らせておくことも忘れてはいけません。それから、時には、偶然を待つこともあります。「ここに作業員さんが来てくれればいいなあ。」とか「ここに鳥が飛べば、いいなあ。」と思う場所があれば、そこでカメラを構えて偶然が通りかかるのを待つのです。妄想する力も必要です。
4、自分の頭で考える
出版不況だと言われているのに、書店に行くと写真のハウツー本が多数並んでいます。なぜでしょう?本が売れなくなってから、出版社は売れそうな本しか作らなくなりましたので、沢山の類書(同じ種類の本)が出ているハウツー本は、固い(売れる)マーケットだと認識されているのです。ではなぜ、読者はハウツー本を求めるのでしょうか?これは私の推測ですが、読者が求めているのは「型」なんだと思います。「こうすれば、いい写真」、「目指すのは、この型」。日本は歴史の長い国ですので、伝統的なものが沢山あり、それらは「型」を受け継ぐことで伝承されてきています。この文化に馴染んだ人たちは、無意識のうちに写真にも「型」を求めているのだと思います。また、生活様式の変化が少なかった江戸時代が長かったため、前例の通りにやっておけば安心という教育が続いたのも理由のひとつにあげられるかもしれません。
確かに、ハウツー本に書かれていることを実践すれば、ある程度までは、それっぽい写真を撮ることが出来ると思います。でも、それでは模倣品を作っているようなものですから、遠くない将来、AIにだって出来るようになるかもしれません。
技術は、目的が明確になっていて初めて役立つものです。写真で言えば、「何を伝えたいのか」とか「誰に喜んでもらいたいのか」。これらを考えることを含めて撮影なのです。それは、誰かに教えてもらうのではなく、自分の頭で考えなければいけないです。
最後に
強い意志を持ち、常に先手を打つ。私自身も決して実践出来ているとは言えませんが、常にそのようにありたいと思っています。
この記事は、「伝わる写真を撮るために写真家が実践してる七項目。」に続きます。
以上、写真家 西澤丞の悪戦苦闘でした!